第四話 放たれた弾丸

 僕は異世界に飛ばされ、ハイジ、ペーロ、アイ、黒マントの四人の仲間に出会った。

 拠点となっている家の外で夜空を見上げていると、アイから敵襲の無線が入る。

 僕とハイジは、すぐに家の中に駆け込んだ。

 ペーロも駆け寄り、四人がリビングに集まる。

 二階を見ると、黒マントはテラスで狙撃銃に付けられたサイトを覗いていた。

「あそこだ、見えるか?」

 アイは、窓の外を指差した。

 遠くの岩の影に、動くものがある。

「二人はいるな……」

「どうすんだ?」

 アイとペーロの会話を、僕は黙って聞いていた。

「これ以上近づかれる前に……仕留めたい」

「こりゃあ、狙撃手様の出番じゃないの?」

 ペーロは、テラスの黒マントを見上げた。

 ペーロの言うとおり、ここから狙撃できれば、家に近づけることなく一方的に仕留められるだろう。

 しかし、敵は岩の影に隠れていて、それがじゃまで撃てそうにない。

「俺は、奴のアビリティに虚空舞立つ鴉スペースジャンパーと名付けた」

「どんな能力なの?」

「見てれば分かるよ……」

 僕はどうするつもりかと、黒マントを見ていた。

 彼は、構えていた狙撃銃を下ろすと、その場から飛び上がった。

 消えた!?

 テラスに黒マントの姿はない。一階に飛び降りたのだろうか?

「あっちだ」

 ペーロが指差すその方向は、敵が隠れている岩の遙か後方の高台だった。

 そこに米粒くらいの大きさで、黒マントの姿が確認できた。

 うそだろう? 今の一瞬で、あの場所まで移動したというのか!?

「高所有利だからなぁ。おそらくあれが黒マントのアビリティ……跳躍に長けているんだろう。クラスで言うとリーパーになるな」

 クラス? リーパー? 疑問に思っているとペーロが答えてくれた。

「俺達は、それぞれのアビリティの特性によって、クラス分けされている。アイツのように瞬時に移動できる者をリーパー、俺のように音も立てずに忍び寄る者をスニーカー。ドローン操作に長けたアイはオペレーター、治癒能力のあるハイジはメディックと言った具合だな。後は、銃撃戦が得意なガンスリンガーや、獣人に変身できるビーストなんてのもあるらしい」

 ズドン――、ズドン――。

 僕達が話していると、腹の底に響く大きな銃声が二回した。

 敵のいる岩陰をみると、二人の男が倒れていた。

「もう殺ったのか……。音からして、あの狙撃銃は24スナイパーシステムだろう……。黒マントの野郎、声を掛けても返事すらしないが、腕は確かだ」

 強い……。

 跳躍のアビリティもそうだが、狙撃の腕前も超一流だ。

「終わりだ終わり……。解散だ。俺の出番無しっと」

 ペーロが振り向き、僕に問い掛ける。

「そういえば、お前の特殊能力……何なんだ?」

「僕にも特殊能力があるの……?」

「あぁ、一人ひとつのアビリティを持っているからな」

 いったい何だろうか? 何か力があるような感じはしない。

「俺も最初分からなかったけど、戦っているうちにふと気がついたんだ、これがアビリティだって。焦らなくても、お前もすぐに分かるさ」

 戦い……喧嘩すらしたことない僕だけど……アビリティの力があれば、この世界を生き残れるだろうか。

「敵は、殲滅したようだな」

 端末を見ていたアイが大きく息を吐いて、ソファに背を預けた。

 黒マントは再びアビリティを使ったのだろう、一瞬でテラスまで戻ってきた。

「どこに隠れても無駄だ……」

 小さな声でそう言い残し、部屋へ入って行った。

「キザな野郎だよなぁ……」

 ペーロはぼそりと呟いた。

「腹減ったー、飯にしようぜ?」

 そういえば、昼に給食を食べてから、何も口にしていない。

 僕もお腹が空いてきた……。特に今日は走り回ったから、腹の減り方も尋常じゃ無い。

「こっちだ、こいよ!」

 ペーロに呼ばれて付いて行く。

 食料は、床下保管庫に用意されていた。

「ほれ、いっぱいあるから好きなだけ食っていいぞ」

 ペーロから手渡されたそれは、砂のような物をいびつな形に固めた物だった。

「乾パンだよ、食ったことねーのか?」

 パンと呼ぶには固く、小麦粉をただ固めただけの物といった印象だ。見た目は砂団子のようで、食べ物には到底見えない。

 ペーロは、既に食い始めていた。

「相変わらず味しねーな……ジャムとかあれば最高なのに」

 一口噛んでみた。

 固くてパサパサしている。味などしやしない。

「容器の中に山羊のミルクもあるからな、ふやかして食うといいぞ」

 大きな壺のような容器の蓋をあけると、ミルクが入っていた。

 柄杓で掬って、コップに入れて口に含んだ。

 牛乳は好きな方だが、いつも飲んでいるものよりも濃いし、何か苦い。それに……臭いがキツい。

「戦いもしつつ、食料まで自給自足だったら流石に厳しいからな。有るだけましだろう」

 アイはそう言ったが、ずっとこんな食事しかできないのは気が滅入る。

「だいじょうぶです。明日からわたしが作りますね。野菜や果物もあるみたいだし」

 ハイジのその言葉に、アイもペーロも喜んでいた。

 今日はこのメニューで我慢しよう。明日の食事が待ち遠しい。

 僕達はリビングで粗末な食事をとった。

「闇は昼間に徐々に進行してくる。ここも明日には飲まれるな」

 アイが窓の外を見つめながら、そう言った。

「夜は外出禁止だ! 敵は人間だけではない……窓の外を見てみるんだ」

 窓の外に、うごめくものが複数ある。それらは、赤い両目を光らせていた。

 僕は驚いて立ち上がり、椅子を倒してしまった。

 あれは昼間、人を襲っていたいた闇の者シャドウアイズ。それが家の外を取り囲むように、何体も見える。

「あいつらは、昼間は闇の中でしか活動できない。しかし、夜になると自由に徘徊する」

 闇の者シャドウアイズが自由に徘徊する……考えただけでも恐ろしい。

「家の中に襲ってきたりはしないだろうか?」

「大丈夫だ……闇の者シャドウアイズにも弱点はある。炎を炊いていれば近づかない」

 ペーロが口を挟んだ。

「家の外に松明を炊いているのさ。これで、家の中は安全ということだな」

闇の者シャドウアイズと無理に戦わないことだ。人に殺された者は再び生き返る。けれど、あいつらに噛まれて同じ姿になってしまうと……もう、元の姿に戻ることはできない」

 僕は昼間、男達が襲われ闇の者シャドウアイズと化しているのを思い出した。そうするとあの人達はもう、元の世界に戻れない。そう考えると、背筋が凍り腕に鳥肌が立った。

「もし噛まれてしまったら……すぐに自害するんだ。そうすれば再び生き返ることができる」

 ペーロが乾パンを加えたまま喋る。

闇の者シャドウアイズになっちまったら、おしまいだからな。それだけは、気をつけねーと」

「闇に飲まれるくらいなら、この手で殺して終えば良かった……」

 アイは小さな声でそう言った。

 その表情はとても寂しそうで、なにがあったか聞けるような雰囲気ではなかった。


 夜は襲撃に備えて、交代で見張りを行う。

 まずは、ペーロとアイが見張りに付いた。

 僕は交代の時間まで、寝室で寝ることにした。

 部屋は各自に一つ割り当てられている。

 埃臭いベッドで横になった。

 今夜は風が強い。窓ガラスに風が吹き付けて、ガタガタと揺れている。

 殺し合いの世界に飛ばされて……僕は無事に元の世界に戻れるだろうか。

 横になってからもう一、二時間、そんなことを考えて、なかなか寝付けなかった。

 そんな時、コンコンと扉を叩く音がする。

 僕は幽霊は信じないが、この世界は何がおきても不思議ではない。

 慌てて起き上がった。

「だれ?」

 扉の外にいる人物に声を掛けた。

「あの、お休みだったでしょうか?」

 ハイジの声だ。

 僕はすぐにベッドから飛び降りた。

 扉を開けようとしたが、Tシャツとパンツ一丁だったのに気が付いた。

「ちょっとまってて……」

「はい……」

 いそいでズボンを履いて、扉を開けた。

 そこには、真っ白なワンピースの寝間着姿のハイジが立っていた。

「どうしたの?」

「こんな夜中にごめんなさい。変な音がするのが怖くって」

 僕はハイジを部屋の中に招き入れ、蝋燭に火を灯した。

 部屋にはベッドしかない。だから僕とハイジで並んで腰掛けた。

「わたし恐がりなんですよね。元いた世界では、とても勇ましい護衛の方がいて、子供の頃はよく泣きついていました」

 仕方の無いことだろう。闇の者シャドウアイズなんて存在を目にしたら、誰だって怖くなる。

「すみません、ビリーさんを護衛みたいな言い方をしてしまって」

 僕は首を横に振って否定した。

 誰かに頼られるのは、気分が悪いことではない。

 ガタン――。

 何か物音がした。

 ハイジの顔がこわばんだ。

「聞こえましたかこの音です」

 耳を澄ますと、風の音に混じって、遠くの方から音がしている。

「僕が様子を見てくるよ」

 そうは言ったが、正直怖かった。しかし、女子に頼られたのなら、ここは男らしいところを見せるしか無い。

 僕は片手に蝋燭と、念のために机の上に置いていた拳銃を手に取った。

 拳銃なんて撃ったことは無い。もし敵がいたら、僕は引き金を引くことになる。

「わたしも行きます!」

 ハイジは、僕の腕を掴んでそう言った。

 彼女が付いてきてくれるだけで、心強かった。

 僕は部屋の扉を開け、蝋燭の灯りだけを頼りに廊下を進んでいく。

 ハイジは僕の腕を掴んで、身を寄せながら付いてきている。

 家の中はやけに暗い。ガタンガタンと妙な音がするたびに、ハイジは僕に身を寄せてくる。

 彼女がいる人って、いつもこんな羨ましいことをしているのだろうか? 前の世界では、こんな経験無かった。

 この世界にきて、悪いことだけじゃないと思った……。

 いいように考えれば、元の世界ではありえなかった経験ができているから。

 階段を降りると、ガタンガタンと音のする方向から、風が流れてきている。

「裏口の方だ……」

 行ってみると扉が開いており、風で叩きつけられている。

 強風で壊れたのだろうか? 扉が斜めに傾き、しっかり閉まっていなかった。

 原因が分かって少し安心した……。

 何か得体の知れない者の仕業だと、不気味で仕方ない。

 表に出ると強風が吹き付けてきて、持っていた蝋燭の火が消えてしまった。

 扉を直していると、表の松明が倒れているのに気が付いた。

 火は完全に消えてしまっている。

 暗いと思ったのはこのせいだ。

 松明は家の周り四箇所に立てていたが、これが消えていると、闇の者シャドウアイズが近づいてきてしまう。

「一端部屋に戻ろう!」

 家の中で待っていたハイジに告げた。

 僕は斜めになった扉をまっすぐにして、開かないように鍵を閉める。

 リビングや廊下には、明かりは灯っていない。

 蝋燭の火が消えてしまったので、真っ暗闇の中、僕の部屋を目指して歩を進める。

 ハイジの表情は良く見えないが、僕の腕をしっかり掴んですぐ横にいるのが分かる。

 階段を上ろうとした時だった

 ギシッ、ギシッ――。

、物音がした……。

 キッチンの方だ。

「誰かいるの?」

 僕は声を掛けたが、返事は無い。

 風で扉が壊れたと思っていたが、まさか何者かが侵入したのだろうか?

 念のため、アイやペーロにも、知らせた方がいいだろう。

 ペーロはテラスで見張り、アイは自室でドローンを操作しているはずだ。

「部屋で蝋燭を灯したら、みんなに報告に行こう」

 僕は横にいるハイジに告げると、彼女は黙って頷いた。

 足元に注意しながら階段を上がり、自分の部屋に戻った。

 マッチを擦り蝋燭に火を灯す。その小さな火が心許なく感じた。

 コツリ、コツリ――。

「足音だ。階段を上ってきている」

 ゲームでは、足音を聞いて敵の位置を把握していたが、まさか実戦でも同じことをするなんて、思ってもいなかった。

 コツリ、コツリ――。

 その足音は、だんだんと大きくなる。

 ゆっくりと僕の部屋に向かってきているのが分かった。

 コツリ――。

 そして、部屋の扉の前で止まった。

「誰だ!?」

 声を出して問い掛ける。

 しかし、返事はない。

 ギリッ、ギリッ――。

 扉を引っ掻くような音がした。

 そして、木製の部屋の扉がメキメキと破壊されていった。

 空いた扉の穴からは、長い爪と鋭い牙が見えた。

 真っ赤に光る目が僕の方を凝視している。

 ぞっとした。

 そんな……闇の者シャドウアイズだ!

 家の中に入られていた。

 ハイジは、僕の横で震えている。

 入り口は闇の者シャドウアイズに塞がれた。

 ほかに出口は!?

 僕は周りを見回した。

 窓……。

 そうだ、窓から脱出しよう。

 しかし、窓の外にも複数の目が光っていた。

 外壁を登って、二階まで上ってきたのか……!?

 囲まれた……逃げ場は無い。

 僕は昼間、男達が闇の者シャドウアイズに襲われて、同じ姿になったのを思い出した。

 同じ目に遭うのはごめんだ。

 僕がなんとかしなければ。

 僕は隣で震えるハイジを抱き寄せた。

 そして、部屋の入り口の闇の者シャドウアイズに銃口を向けた。

 銃を握った僕の手は恐怖のためか、震えている。

 こんな状態で、当たるのか?

 バキッ――!

 そして遂に、入り口の扉が壊されて、闇の者シャドウアイズが部屋に入ってきた。

 その数は、一体じゃなかった……。

 真っ赤な目は全部で六つ……三体いる!

 闇の者シャドウアイズは、まるで犬の様な勢いで飛びかかってきた。

 僕は恐怖のあまり、目を瞑ってしまった。

 それは、戦場においてあるまじき行為だ。

 しかし……しかしだ、僕の腕だけは違った。

 僕の意識とは関係無く、かってに動いた。

 まったくの無意識だった。

 目を瞑っているのに、飛びかかってくる闇の者シャドウアイズの頭に銃口を向けたのだ。

 そして、僕の腕は勝手に引き金を引いた。

 パァン――。

 激しい音が鳴る。

 闇の者シャドウアイズの頭は破裂し、緑色の体液を飛び散らせながら壁に叩きつけられた。

 僕は反動で倒れそうになりながらも、すぐさま二体目の頭に照準を合わせた。

 再び、右手人差し指でトリガーを引く。

 パァン――。

 凄まじい銃声と共に、二体目の闇の者シャドウアイズの頭にも風穴が空いた。

「ギャアァァァァァァッ!」

 その闇の者シャドウアイズは、身の毛もよだつ不気味な断末魔を発しながら動かなくなった。

 最後に残った闇の者シャドウアイズは、逃げようとして入り口で背を向けたが、僕の銃は逃しはしない。

 素速く後頭部に標準を合わせ、トリガーを引いた。

 パァン――。

 弾丸は、三体目の闇の者シャドウアイズの頭を貫いた。

 やがて、僕の部屋は静けさを取り戻した。

 風の音だけが聞こえてくる。

 硝煙の臭いが部屋に充満している。

 窓の外にいた闇の者シャドウアイズの姿は、もう見えなかった。

 僕は暫く動けなかった。

 銃を撃った僕の手は未だに震えている。

 ハイジも恐怖のためか、言葉を失っている。

 銃声を聞いたのだろう、すぐにペーロとアイが駆けつけてきた。

「大丈夫か!?」

「これは闇の者シャドウアイズ……お前がやったのか?」

 部屋には、倒れている闇の者シャドウアイズの死骸がある。

 僕はあの時、目を瞑っていた。

 なのに……腕がかってに動いた。

 僕の意識とは関係無く、自動で標準を合わせ、自動でトリガーを引いた。

 まさか!? これが……僕のアビリティなのか?


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能力に目覚めたビリー! オートエイムで無双がはじまる!?

⇒ 次話につづく!

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