君とパン屋でパンを威嚇しよう
「
「あ、はい、なんでしょうか
「うむ、そこに座りたまえ」
「お心遣い大変ありがたいんですが、そこは既に俺の席なんだなあ」
「まあ遠慮せずどうぞどうぞ、」
「どうもどうも」
言われるがまま、そもそも言われなくとも座る予定しかなかった自分の席へ腰かける。俺は座高もあるので席がだいぶ後ろだ。座れといった十条さんはというと机の横にただ、立っている。
「十条さんも前座ったら?」
「いや、私はここでいいの」
「そう」
「それで話なんですが馬場くん」
「はい」
十条さんと話すようになったきっかけは思い出せないが、まあ思い出せないということはたいして嫌な記憶でも、特別良い記憶でもなく、当たり障りないことがきっかけだったんだろう、と思いながら彼女を見上げる。いつも見下ろしているから少しなんとなく、気分が違うなあと思っていると、十条さんが瞬きをぱちくりとする。
「いつも見上げてるからフレッシュな気分」
「ああ、同感」
「ね」
うんうん、と頷くと、にこ、と彼女が笑う。普段、十条さんはあまり笑うことがないのでそこそこに貴重だ。
「駅前にパン屋さんが出来たんですよ」
「おお」
「一緒にどう?」
「俺?」
十条さんってよく俺を誘ってくれるんだけどどうしてだろうか。まあ、俺も気を遣わなくていいなあとは思っているので別に困ってもいない。
「うん」
「良いけど…」
「いっぱい買うと、えっ?あいつスゲー食うな、みたいな視線に耐えられない時がまあありまして」
「はあん、なるほどね」
「大柄な、馬場くんを、利用するのは大変、気が引けるんだけど、頼めるのも馬場くんしかいなくてですね」
「まあ、見た目めっちゃ食いそうって言われるけど」
「君が小食なのは遠くから聞こえる話で知ってはいる」
「あ、どうも」
「付き添っていただければ、と、お願いをですね」
「なるほど」
「迷惑じゃなかったらでいいんで」
十条さんは確かに少し体格がふくよかだし、沢山ものを食べる印象がある。あるが、いつだか見たことがある彼女の食べ物を食べている様子は美味しそうに楽しそうに食べるので見ていて気持ちが良いと思った。
食事に関して関心が高いようで、新しい飲食店がオープンするとチェックをしているらしい、というのも聞いた。
「行こうか」
気になるのに理由があって行きづらい、というのはわかるし、俺で役に立つなら、と頷くと、彼女と目があう。
「良いんですか……」
「畏まらないで…十条さん、俺と貴女の仲じゃない…」
「お姉さま……いや、このばあいお兄様…?」
「お姉さまだとすると俺は大分でかいと思うぞ」
「それはそれで、有りだから良い」
「有りなんだ?」
「じゃあ帰り一緒にゴーだ」
「オッケーオッケー」
「ありがとう馬場くん、そして申し訳ない…」
「良いって」
「嬉しいよ」
「それは俺も嬉しいな」
ふにゃ、と笑った彼女はいつになく嬉しそうに、目の前で破顔した。
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