君の明るさが眩しいのだ

 笹原ささはらは変わっている、と思う時がある。


 笹原ささはら友孝ともたか、は友達だ。昔から一緒で、周りに話したことはないけど幼馴染、だったりする。とはいっても、本当に小さい頃、笹原の近所に祖父母の家があって、薄っすらした記憶の中で、祖父母の家に遊びに行くと必ずと言って良いほどよく遊んだ相手が笹原だった。

 昔から笑い方が変わらなくて、残念ながら笹原はあまり俺の事は記憶になかったものの、高校に入ってから再会して、声をかけてくれた。変わらない笑顔のままで。それがどうしてもうれしくて、でも笹原が俺の事を覚えていないならそれはそれで構わないなと思ってもいる。実際まだ、笹原には「俺達小さい頃会った事があるんだ」とは言ってないし、特に言う必要も感じてなかったりする。

 笹原は多分、変わらず俺とも話してはくれるんだろうし、沢山友達を作るんだろうなとも思う。


隼人はやとー!もう帰るの?」

「……あぁ、うん、帰るよ」


 昔は同じ視線だったのに、すっかり背が伸びた笹原は180cm近くはありそうなくらいに背が伸びている。


「笹原、部活だろ」

「うん!」


 にこにこと笑って頷く笹原につられて笑う。


「……また明日」

「うん、またな!」


 クラスの中じゃ結構大柄な方に入ると思うのに、それほど大きく感じないのは馬場ばば岡山おかやまみたいにもっと大きいのがいるせいなのか、そもそも笹原にそんな威圧感がないからなのか、どっちだろう、と考えながら昇降口を出る。

 ここじゃあ部活に絶対入らないといけない、なんて決まりはないから気が楽でいい。部活を楽しむ人もいれば、俺みたいに帰る人もいるし。


本郷ほんごうくん」


 人の声の質感、というのをあまり気にしたことはないけれど、笹原はよく通る声だと思う。通るというか声量があるので良く聞こえるタイプだけど、彼女の、千種ちくささんの声、というのは、線の通った様な、ぴんとした声、だろうと思う。もし、例えるとしたら、の話だ。


「……はい」

「落とし物したよ」

「…あぁ、ありがとう」


 千種さんの手の中にボールペンが握られている。別に、高いわけでもないけど、いつも制服のポケットか、鞄の内側に一本、差し込んでいるもので、無くなって困るわけではないけど、わざわざ追いかけて来てくれたんだろう、と思う。彼女が俺と逆方向に歩くのは、時々見ていたから知っている。


「どういたしまして」


 にこりと笑う彼女は、なんとなく、好ましいなと思う。恋愛感情の好き嫌い、じゃなくて、なんというか、人柄として、良い人だと思う。俺は少し卑屈過ぎるという自覚があるから、笹原や千種さんのような素直に言葉を受け止めて話す人が好きだ。


「ごめんね、……家、逆の方なのに、歩かせて」

「えっ?あ、いいよいいよ、そんなすごい歩いたわけじゃないから、ほら、数メートルくらい?だしさ」

「……ありがとう、千種さん、優しいね」

「や、や、そんな、そんなことはないよ、ほんと、たまたまだったから、ね?」


 両手の指先で眼鏡のつるを少しだけ抑えて俯いたのを見るに、困らせた、かもしれない。


「…困らせたね、ごめん」

「あ、あ、困ってないよ、照れちゃっただけ!こっちこそごめん!!」

「…わかった、うん、ありがとう」


 笹原だったら上手に会話くらいするんだろうけど、生憎俺はあまり上手じゃないから、結局へたくそな返事を返してしまう。


「いいの!じゃあまた明日ね、本郷くん」

「………あぁ、またね」


 控えめに小さく手を振った千種さんはそのまま反対側へ歩いていく。今日は確か、制服のポケットにボールペンを差していたから、どこかで落としたのを彼女が見ていたのか、見つけてくれたのかもしれないと考えながら家に帰った。

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