趣味仲間と忘れていた敵
人に迷惑をかける趣味なわけではないけれど、それでもこっそりと楽しんでいる趣味がある。
なかなか見つけるのも警戒心が必要な趣味に、少なからず理解者、同じ趣味の子がクラスにいるのは心強い。
「おはよう
「おはよう
小さな声だけど確かに挨拶をしてくれたのは、同じ趣味をひっそりもっている
アニメと漫画が好きで、でもかといって熱心な方じゃない、オタクというもののなかでも大分ライトなあたりをうろうろしている私たちは、趣味も好むものも違うけど話は合った。例えば好きなキャラクターが似ていたり、例えば好きなシチュエーションが似ていたり。仲間意識じゃないけどひとりぼっちじゃないというのは大変心強く、有難いと思う。
「ね、ねえねえ、帰りにゲームセンターに…いこう?」
ちょんちょんと袖を引いて見上げてくる彼女は、同性の私から見ても大変可愛い、と思う。小柄で守ってあげたい感じが凄い。
「え?ゲームセンター…?」
「う、うん、あの、ね」
きょろきょろとあたりを見回した香夜ちゃんが、少し強く袖を引いたのでそっと背を屈める。
「ゲームセンターに、ね、好きな特撮キャラクターの、フィギュア、出てて、みたい、の」
香夜子ちゃんは、特撮ものが好きだ。変身ヒーローが特にも好きだ。日曜日は欠かさずニチアサをしているし、SNSは彼女の控えめなツイートでよく賑やかだ。私はそっちの知識が薄いので色々聞いていて面白い。
「今やってるやつ?」
「新フォームのフィギュアがあったの…」
「…確かそこ、くじもやってた、よね…今やってるゲームのくじ置いてた気がする……一緒に行こう」
「やった!」
嬉しそうに目を輝かせる香夜ちゃんは可愛い。ああ、とってもかわいい。
「鈴ちゃん、くじするの?」
「どうしよう、見たらやりたくなっちゃうのかもしれないけどものが増えちゃうのは困る……」
「あ、わかる…私も食玩がふえてきちゃった……」
「日曜のと土曜のと追いかけてるものね」
「ううう……」
子供っぽい、とか男の子の趣味かなと悩む彼女はそれでも好きなものを傍に置いておきたいタイプで、スマホの待ち受けがシリーズ作品を通して一番好きなヒーローのものになっている。今やっているやつも好きだとは言っていたけど、一番大好きなキャラクター(彼女の場合は一番好きなヒーローだけど)がいて、そのキャラクターだけは別枠、という気持ちもわかる。
「でもお母さんが折角だから飾っておきなさいって棚買ってくれたの…」
「えっ…すごい」
「お母さん、ヒーローに興味はないんだけど、集めるなら揃えてみたい、ってタイプだから」
「なるほど」
ふにゃふにゃ、と笑った顔は嬉しそうだった。
「部屋に戻ると棚に綺麗に並んでるの…嬉しい」
「わかる……」
私もこっそり好きなキャラクターのグッズを閉まっている引き出しがある。
まだ人が少ない時間に、こうして彼女と小声で話す時間が何よりも好きだったりする。彼女は私の趣味を否定しないし、私も彼女の趣味を変だとは思わない。それが私にとっては心地がいいし、彼女も、そう思ってくれているのだったら嬉しい。
私は自分に自信がない。趣味ひとつとってもこんな趣味は変なんじゃないかと思うくらいに自信がない。
でも、香夜ちゃんは、私の趣味を知ったとき、否定も何もせず、それってどんなお話、と聞いてくれた。無理に合わせてくれるわけでもないのが安心するし、彼女が楽しそうに話す姿が好きだ。彼女には、私と友達で困らない?と聞きたくなる時もあるけど、こうして声をかけてくれて、笑ってくれるのがとても、暖かい。
「あっ、きょ、きょう、数学小テストだった…?」
「え?うん」
「あ、ぅ、……」
うつむいて自信がなさそうな彼女を見て、ああ、今まで忘れていたのか、と理解する。
「休み時間に悪あがきしよう」
「す、するっ、しないよりする」
小さな手をぎゅっと握った彼女の大きな瞳は少しだけ、待ち構える小テストに対し、不安そうに揺れていた。
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