雨と傘と

「げえー……雨だあ」


 すごい雨だなあ、とどうやったらこの横殴りの雨の中あまり濡れずに帰れるかなと昇降口で少し考えながら薄暗い空を見ていると、近くで声が上がってついそっちを見てしまう。本当に「げぇ」みたいな顔をして同じように空を伺っている人がいる。ベリーショートの髪はそういう癖のある髪の毛らしくて、ワックスで固めてるんじゃないかってくらいつんつんとしているのに何もしていないのだと言っていたのを覚えている。


「みなみちゃん」

「あー、愛子あいこ

「雨凄いね」

「あぁ、やべえよな」


 どうすっかなーとさっぱりした話し方が特徴的なのがしろがねみなみちゃんだ。さきちゃんとは違うサバサバした感じが私は話しやすい子だな、と思う。


「傘、良かったら貸そうか」

「愛子どうすんのさ」

「いつも鞄に折りたたみ傘入ってて、今日は雨が降るかもって言ってたから普通の傘も持ってきてたの」


 だから大丈夫だよ、と笑うとみなみちゃんは少し考えて、じゃあ借りると近づいてくる。


「はい、どうぞ」

「あー…あのさ」


 ぎゅ、っと眉間にしわを寄せたみなみちゃんに、もしかして柄が嫌だったのかな?と思ってしまう。生憎、どっちの傘も可愛い柄が控えめにプリントされたものだから、出来るだけ目立たない普通の傘の方を差し出したのだけど。


「愛子が良いんだったら折りたたみ貸して」

「え?」

「開くと多分こっちがデカイでしょ、愛子は大きい方にしときなよ、濡れちゃうから…ああでも傘でかいと風吹いたときヤバイかな」

「風は全然、私足腰強いからいいんだけど……折りたたみじゃみなみちゃん濡れちゃうよ?」

「いいっていいって、アタシ家近いもん。すぐ着替え出来るし。それより愛子の方がちょっと遠いじゃん」

「んん、まあそうだけど……」

「じゃ、決まりね」


 借りるよ、といって差し出された右手に、ほんとにいいの?としつこいかもしれないけど確認しながら折りたたみを渡す。


「それ、可愛い柄入っちゃってるんだけど」

「え?別にいいけど」

「そうなの…?」

「拘りないからアタシ」


 そう言いながら傘を開いたみなみちゃんが、柄を見て、「愛子、猫好きなの?」と聞いてくる。


「うん、猫好きだよ、アレルギーがあるから見るだけだけど」

「……うち猫飼ってるから今度写真見せよっか」

「えっっ!いいの!?」

「いいよ、あとで連絡先教えてよ」

「わ、わかった!」

「写真撮るのくっそ下手くそだから上手にとれないかもしれないけど許してな」


 にかっと笑う彼女は、なんというか、本当に清々しい、という言葉がぴったりの人だ。


「じゃあ借りてくわ、愛子も気を付けて帰りなよ」

「あ、うん、また明日!」

「おお!また明日な」


 歩く姿も、言い方は適切かわからないけど男前、っていうか、みなみちゃんは堂々としている。腕まくりしてたけど寒くないんだろうか。


 後日、みなみちゃんと連絡先を交換してみなみちゃんの家の猫ちゃん達の写真を沢山送ってもらった。

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