コピーモノクロ一枚10円

「委員長ー」

「どうかしましたか」

「昨日国語で配ったプリントコピーさしてもらっていい?」


 昼休みに大門だいもんと話をしていたところに現れたのは岡山おかやまだった。少しだけ明るいふわふわっとした茶色の髪は地毛らしく、蛍光灯の明かりを跳ね返してより明るさを増している気がする。

 委員長、というのは大門のあだ名で、雰囲気が委員長ぽいから「委員長」なだけであって実際はそんな役職にはついていない。


「良いですよ」

「助かるわーー」

「わざわざ大門に借りる必要あるのか?」

「一番きれいな状態でもってそーじゃん?イインチョ」

「まあ、確かに」


 クリアファイルにきちんといれて持ち歩いているしなと思いつつもふっと疑問もわく。


「岡山、お前昨日休みだったっけ」

「出席してたけど」

「プリントは?」

「やだな、馬場、わかるだろ…言わせんなよ恥ずかしい。自慢じゃないけど無くしちゃったの」

「おお、確かに自慢じゃないな」

「ほんとはザキくんに借りたかったんだけど、ザキくん今日欠席してるんだもん」


 はいどうぞ、とそんなやりとりしてる間に大門が岡山にプリントを手渡す。ザキくん、と岡山が呼んでいるのは山崎秋やまざきしゅうの事だ。今日は発熱の為欠席しているらしい、というのは交友幅が広い深谷ふかやから聞いた。


「ありがとーーーこれで生きれるー」

「プリント一枚で生き死にがかかってるとか嫌だな」

「テストの点数はある意味生き死にって感じしてるじゃん」

「確かに」


 俺も岡山も成績的にはなんとか上中下の中のラインをキープしているというところで、小テストにせよ中間ないし期末テストにせよ、事前の学習をさぼるとヤバイ点数を叩きだすタイプだ。


「まーーー実際赤点とっても補習呼ばれるくらいで死にはしないけども、出来れば補習は回避したいじゃん?夏休みとか特に」

「そうですよね」


 にこにこと黙って聞いていた大門は中の上、なので少しは余裕があるようだがそれでも勉強をおろそかにはしないタイプだ。というか大門が赤点をとるのが想像できない。


「委員長はまだいいよー俺はヤベーんだってーなあ、馬場」

「わかるよー岡山ー」

「ありがと、さすが馬場、俺の理解者」


 わざとらしい声を出して、わざとらしいモーション付きで、そんなことを岡山が言う。正直同じくらいの背丈だからそんなことしてると目立つぞと言いたいのだが、彼は細かいことを気にしないタイプだった。


「今だけな、理解者なのは」

「うん」

「他は理解できない」

「されてても恐ろしいだけだから、あ、じゃあちょとコピーしてくるわ、イインチョ、待っててね」

「はい、待ってますね」

「すぐ戻るからっ!待っててネ!」


 まるで誰かと長いこと離れ離れになる人、と言った感じで岡山が小芝居を挟んできて、大門は少し楽しそうに笑う。


「いーーーから小芝居は」

「ノってこいよなー馬場ー」

「ノれるかそんなの」


 あははと笑いながら急ぐね、と告げて岡山が廊下に消えていく。


「馬場さんは岡山さんとも仲が良いんですね」

「何かしら一緒にセット組まされるから、デカイとデカイで」

「ああ」


 岡山が戻ってきてから、今度のテスト勉強は一緒に勉強会でもしてみようか、なんて提案を岡山にされ、それはそれで、良いかもしれないなんて思った。

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