第76話 伴侶とは長く一緒にいたいだろう?

「エスペロ君。最後に少しいいかな」

 町を出る前、ひとり、引き留められた。

「……その呼び名はやめてくれねえか」

「なんで? 本名だろ?」

「いくら過去をどう解釈し直しても、もう、しっくりこねえんだ。はみんなと一緒に死んで、俺は五年間……人生の半分をアシュラドとして生きてきた。これからも、それでいいと思ってる。決して後ろ向きな意味じゃなくてもな」

「そう。ならまあ……アシュラド君、君に伝えておくことがある」

「なんだ?」

「君は連中の命を救うことを自分の願いにしたつもりだろうけど、さすがにわしもそこまで鬼じゃない。あ、昔わしの種族は『』って呼ばれてはいたけどね、ハハ」

「はぁ」

「あれとは別に、ちゃんと今回の礼として願いは叶えてあげるよ。

 ただ、きっとそれを叶えるべきは今じゃない。

 君が時の助けを必要としたとき、必ずわしらは君の望みを叶えると約束しよう」

「それは……有り難いが、大怪我をしたときとかってことか?」

「違う違う。

 ヒントはね、わしらが決して見た目どおりの年齢じゃない、ってことさ。

 長寿命の種族ってわけじゃない。一番多いのは『人間』だしね。

 この町のサービスがこぞってハイクオリティな理由は、単純に、長い時間をかけて洗練したから、ってのもあるのさ」

 そう言われても、アシュラドはピンと来ない。

 駆け引きするつもりもないので、率直に首をかしげる。

「察しの悪い男だねぇ。まあ、君はまだ若いから実感がないのも無理はないか」

 ナウマは目を細めて苦笑する。

「ブレディアの成長速度が著しく早いってことは知ってるよ。

 一族を失った君は、つまり自分よりも時の流れの遅い者たちと生きていくしかない。

 でも解ってると思うけど、成長速度が早いってことは、その分、寿命も短いってことだ」

「それは……まあ、そうだが」

「だから、今じゃないのさ」

「……なんか、思わせぶりだな?」

「そんなつもりはないよ? ひと言で言えば、つまり、伴侶とは長く一緒にいたいだろう? ってことさ。特に、『人間』以上に寿命の長い種族が相手なら、なおさらだ」

「やっぱり思わせぶりだな」

 違うって、と言いながら、ナウマは愉快そうに声を立てて笑った。

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