第76話 伴侶とは長く一緒にいたいだろう?
「エスペロ君。最後に少しいいかな」
町を出る前、ひとり、引き留められた。
「……その呼び名はやめてくれねえか」
「なんで? 本名だろ?」
「いくら過去をどう解釈し直しても、もう、しっくりこねえんだ。
「そう。ならまあ……アシュラド君、君に伝えておくことがある」
「なんだ?」
「君は連中の命を救うことを自分の願いにしたつもりだろうけど、さすがにわしもそこまで鬼じゃない。あ、昔わしの種族は『
「はぁ」
「あれとは別に、ちゃんと今回の礼として願いは叶えてあげるよ。
ただ、きっとそれを叶えるべきは今じゃない。
君が時の助けを必要としたとき、必ずわしらは君の望みを叶えると約束しよう」
「それは……有り難いが、大怪我をしたときとかってことか?」
「違う違う。
ヒントはね、わしらが決して見た目どおりの年齢じゃない、ってことさ。
長寿命の種族ってわけじゃない。一番多いのは『人間』だしね。
この町のサービスがこぞってハイクオリティな理由は、単純に、長い時間をかけて洗練したから、ってのもあるのさ」
そう言われても、アシュラドはピンと来ない。
駆け引きするつもりもないので、率直に首をかしげる。
「察しの悪い男だねぇ。まあ、君はまだ若いから実感がないのも無理はないか」
ナウマは目を細めて苦笑する。
「ブレディアの成長速度が著しく早いってことは知ってるよ。
一族を失った君は、つまり自分よりも時の流れの遅い者たちと生きていくしかない。
でも解ってると思うけど、成長速度が早いってことは、その分、寿命も短いってことだ」
「それは……まあ、そうだが」
「だから、今じゃないのさ」
「……なんか、思わせぶりだな?」
「そんなつもりはないよ? ひと言で言えば、つまり、伴侶とは長く一緒にいたいだろう? ってことさ。特に、『人間』以上に寿命の長い種族が相手なら、なおさらだ」
「やっぱり思わせぶりだな」
違うって、と言いながら、ナウマは愉快そうに声を立てて笑った。
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