第10話 ロリ王子

「ぱ、パニーがさらわれたぁぁあっ!?」

 その夕刻、王城に絶叫がこだました。

「……はい。た、大変申し訳」

「そ、そそそんな馬鹿な。一体誰がいつどこでどうやってなんの目的で!?」

 声の主はキリタタルタ・サバラディグ。この国の第一王子であり銀髪の美青年である。しかし今は端正な顔を世界の終わりを知ったかのように歪ませ、裏声で臣下を締め殺さんばかりの勢いで詰問している。

 セルクリコの内乱があった際、パナラーニを匿い続けるよう主張した本人であり、現在もこの国に於ける第一の後見人となっている。歳は二十二、普段は公務でパナラーニのことは臣下に任せているが、目の中に入れても痛くないほど溺愛している。

 ひとまず経緯を簡単に聞いたキリタタルタ王子は額を押さえ、耐えるように絞り出す。

「で、対策は?」

「ひ、ひとまず街の近辺を探させていますが……何分目的が解らず。もしかしたら明日にでも、身代金の要求があるのかもしれませんが……」

「馬鹿を言え! このまま一夜過ぎるのを許せと!?」

「も、もちろん全力でお探し致します」

「当たり前だ! あの美しさを前に、賊がいつまで正気を保てるか……気が気でならん」

「や、あの、それは……大丈夫では」

「何故そう言い切れる!?」

「まだパナラーニ姫様は幼いので……」

「貴様ぁ! パニーを愚弄するか!?」

 してない、と言いたげに臣下の顔は歪むが、それを口にしても無駄だというのはよく解っているので、言わない。キリタタルタ王子が泣く寸前の顔になって天井を仰ぐ。

「ああパニー……パニー! こうしている間にも、恐怖で震えていることだろう。待っていてくれマイプリンセス、必ず僕が賊共を皆殺しにして助け出す!」

 陶酔気味に拳を握り、臣下のことなど忘れたように走り出す。

「あっ、キリタタルタ様!?」

 制止の声も聞こえない様子で、そのまま去って行く背に臣下は溜息を吐いて呟いた。

「……ロリ王子」

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