第8話 シンデレラの十二時の鐘を心待ちにしている乙女は、私では無いと信じたい
「むんぐぅう!?」
「はっはっは! やりやしたぜアニキぃ!」
「よしよくやった! アジトにノコノコ入ってくるなんざぁ素人のやる事よ! 新人かよ女ぁ!? さぁゲスオ、このまま畳み掛けるぞ!」
「へい!」
二人掛かりなんて卑怯極まりない行為を恥ずかしげも無くやる辺り、この人達がゴミ人間なのは言うまでも無い。
「何をする気!? これを離しなさい!」
「な、何だぁ……? お、思ったより喋れるんだな……、気絶もしない、どこか間違ってるのか……?」
「あぁ!! ただの布一枚で、しかもしっかりと口を塞いでいないのだから喋れます! それにクロロホルムを塗っていないでしょう! 薬を塗らないと気絶なんてする訳ない!」
「クロ……、ルム……? え……?」
「また不完全な知識に躍らせれてぇ! また本で得た知識を見よう見真似でやっているんでしょう! 真実かどうかも疑わず実行する、これだから本を読む連中は馬鹿しかいないのよ! 他人の知識に頼りっぱなしの脳足りんなんだから!」
「本は正しいでゲス! 間違っていないでゲス!」
「その喋り方! どうせ「下っ端の心得」とかそう言う意味のわからない本で学んだのでしょう!? そうでしょう!」
「うっ……。あ、アニキぃいい! こいつ嫌な奴でゲスよぉお!」
「な、何て奴だ……、一瞬で本のタイトルを当てやがった……。どうしよ……、えぇっと……、……こうなったら! 拷問でこの場を制し、本の素晴らしさを伝えてくれる!」
「拷問!?」
拷問。対象を拘束し、肉体的精神的に痛めつける事により自白をさせたり追い詰めたりする事である。である、じゃない。そんな事言っている場合では無い。
「ふふふ、この「拷問のススメ」と言う本が売れた理由が良くわかる……。こういう時、こういう場所で役に立つのだからな」
「アニキ! どれにしやす!? どれにしやす!?」
「まぁまてゲスオ、そう急かすと奇跡の拷問が逃げてしまうぜ? ……覚悟しろ女! よし! この辺を開くぜぇ!」
沈黙が数秒続いた後「なるほど、こいつは恐ろしい物を引いてしまったかもしれん」アニキと呼ばれている人が、ヒア汗を垂らしながらニヤついた。
不味いと直感する様な、そんな不適な笑み。
「くっ……、外道め……。私に手を出したら許しはしない! 離せ!」
「そう暢気に喋っていられるのも今の内だ」
全くこんな事になるのなら両親を更生させておくべきだった。 あんなアホをのさばらせておくなんて一生の不覚、遺書を書く時間があるのなら両親にあてた作文を五百枚は容易出来るのに。お菓子をもっと食べたかった。お小遣いはもっとくれとは贅沢な事は言わないまでも、せめて文具は日用雑貨は買って欲しかった。そんな内容を促す本を読んで欲しくなかった。そもそも何の仕事をしていたんだあの人達は、どこからお金が入ってきていた。今になって気になってしまった、お父さんは家にはいなかったが夜にはいたからサラリーマンとかだろうか。母はずっと家にいたから専業だろうなと思っていたけれど、どこからあんな大量の本を買う金を捻出してきていた。そもそもの話をするのなら、どうして本に完全に左右される性格の持ち主が今まで生きてこれたんだろうか。謎が謎を呼ぶ。
謎がこの問題を解決する訳が無いのだから呼んでも仕方が無いのだけれど、一応すがってみる。
「これで終わりだぁ! 行くぞ!」
男の手が私に迫って来る。ゆっくりとねっとりと、腐った納豆の様な粘り気のある手付きが私を襲う。どれだけの行為をされてしまうのか、どれだけの苦痛を味わうのか、想像もしたくない。だって地獄は直ぐ目の前にあるのだから。
「……っ! ……っ!? ……あっはっはっは! ははははああはああははっはは!! ふひひあはははは! あは! あは! やめて! やめ……、ひへへへへへ!!」
「ここはどうだぁ!? 苦しいか!? 来るしいだろう!」
「やめて! くるしい! くるしいからぁ……あはははははは! ちょっとほんとにやめひひひ! お、おしっこもれそうわははははは!!」
「な……、なんて恐ろしい拷問でゲス……」
まさかのくすぐるだけと言う拍子抜けも甚だしい行為だったが、しかし本当にこれは以外ととんでも無かったりするのだから嫌になる。後ろから口を塞がれ、前から全身をくまなくくすぐられ、頭がおかしくなりそうなくらいに感覚が研ぎすまされている私はどこに行ってしまうのだろう。このまま笑いすぎでぽっくり行ってしまったら目も当たられない。かなり苦しいこの拷問に、私は耐えられるだろうか。
それから十分以上くすぐられ続けた私の心情は語るべくも無い。
「……ふぅ……、まぁこんなものか」
「はぁ……、はぁ……、はぁ……、……や、やってくれたわね……、この下種共……、ゆ、許さないんだから……」
疲労困憊。倦怠披露。煩労汚辱。困窮疲弊。中学生の時に覚えてしまった四字熟語がこれな事に嫌気が差してしまう。私は今の気持ちは応接不暇、これは忙しいと言う意味らしく心身共に忙しい私には絶好の日本語と言える。心が疲れていた私が辞書で何と無くに調べた四字熟語は、数年の時を経て初めて使われたのだった。
この気持ち、まさに切なさ。今のこの苦痛より、昔の事を思い出した今の方が苦痛だったりする。可哀相な私、悲劇のプリンセス。ガラスの靴は靴擦れが起きそうで怖いと思っていた、綺麗だからと言ってそれが良いとは限らない。あぁ、十二時の鐘はまだかしら。だって早く終わって欲しいから。
私は今多分、混乱しているのだろうと自分でも感付いていたけれど、それは心にしまっておく事にした。
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