第4話 行き違った答えはそのまますれ違う



「ふ、ふふふ……。そんな刀があった所でどうしようもないのですよ。さっきの私の異能の力を見ましたか? 見ましたのなら言葉要らないでしょう、手をかざせばビームが出て、手をかざさなくとも本が燃えて、そんな私に対して対決を挑むなどホットストーンインウォーター。あ、これ焼け石に水って意味なんですけど」


 本物の刀は良く切れると言う事が今わかりました。人生で本物の刀なんて見た事がないのだから、それはもう仕様も無いなまくらと見て軽視する。


 私の頬が切れるまではずっとそう思っていた、人生改める事が沢山ありそうです。


「ひぃ!? 何をするのですか!? き、切れて……、血が、血ががががが!」


「俺のエロ本を燃やした代償は支払ってもらう、まずはその至らないこぶりな胸からさらけ出して謝罪しろ!」


「あなたは暴君だったんですか!? ただのスケベな本が燃えた程度で怒りをあらわにするなんて人として最低な行為! 末代までの恥! このけだもの!」


「お前がエロ本になるんだよ!」


「で、でも私の力があればこんな展開どうにでもなります! 何故なら私は主人公だから! ほらこうやって! ……あ、あれ、出ない……、あれ? さっきはたしかこう……、あれ?」


 どうやってさっきのを出したか一切を忘れてしまった。よく考えたら勢いに任せて出した物なんて無意識なのだから、意識して出せと言われても難しいのかもしれない。


 この短時間でこの事の気付けた私は優秀なのかもしれない。だとしたらちょっとまずいのかもしれない。


 既に男は目の前に立っていた。


「待って! それはいけない! それは良くない! 私は美味しくありません! あなたも犯罪者に成り下がりたくないでしょう! 銃刀法違反に属しますよ! 捕まってしまいますよ! 今ならまだ間に合いますよ! その剣を降ろさないと私がどうなっても知りませんよ!」


「それだけ元気ならぁ! 良い子供が生めるだろうよ!!」


「ぃいいやぁあああああああ!!」


 剣が私に向かって振り下ろされた。家にあった包丁よりも長く鋭く、人を殺すための金属は何の遠慮も無くずけずけと私に入ろうとしてくる。


 こんなのがか弱い女の子の麗しき柔肌に触れようものなら、一瞬で豆腐の如くスッパリと行ってしまうだろう。つまるところ死。私はここで死ぬ。


 私は良い子でいただろうか、親孝行が出来ていただろうか。否、子孝行が一切も出来ていない親に親孝行なんて贅沢な事する必要無し。


 あの人達は私をペットか何かだと思っていたいたのだ、私のプリンを食べやがった恨みは墓まで持っていく事としよう。


 後から来るであろう天国で待ち伏せでもして閻魔様に嘘方便を突きつけ、悠々自適な天国ライフを送るのだ。いや、あの二人は地獄だからこの計画は達成される事は無いかもしれない。残念無念。


 だからほとんど感謝はしていないけれどさようなら、親ごっこのおままごとをしていた二人にさようなら。ろくな思い出が無い可愛そうな子供時代にさようなら。こんな一寸先も見えない光も無い世界にさようならを告げている暇があるのなら、この状況をどうにかしなさい私。


「な、何ぃ!?」


 男の剣が真っ二つに折れ、白く破片となった粒が飛散する。男の剣と言っても刀の事であるが、やはり私はもっている主人公なのだと深く自覚した。


「私自身が剣だ! 剣は剣に切られない! 心を強く持っている以上折れない!」


「何だその意味のわからない理論は! 人は剣で切れる物だと書いてあった! さっきから変な技ばっかり使いやがって……、何なんだお前は!」


「……この変態野郎!」


「はぁ!? いきなり罵倒かよ、やってられねぇ……な……? 何で俺の腕に切り傷がある……? どこで切った……? ……まさかてめぇ!」


「言葉の刃。今あなたの心の傷は体に反映されたんです」


「……っはっはっは! おもしれぇ! だったら俺をもっと罵って見せろよこの貧乳女!」


 それから数時間、目の前の名前も知らない男との争いが続いた。お互い自分の信念を曲げないエゴだけをぶつけ合い、時には相手を否定しながら曲げられない信念を押し付け合い潰し合った。

 

 終わりには疲弊だけが残って無駄な時間を過ごす結果となった。存分に貶し合った所で両者言葉を失い、今度は逆にお互いの良い所を挙げあって見る事にした。


 しかし特に良いところが見つからず、悩んだ末二人で出した答えが――。


「世界中の本を燃やす為旅に出ましょう」


「世界中の本を集める為旅に出るか」


 微妙にすれ違った答えが、言葉も無くお互いにらみを効かせた。

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