第3話 本物だったら銃刀法違反で私の不戦勝です
その後バケツ数杯に分けた水を二人で掛け続ける事三往復、この木造の建物に燃え移る前に無事消せた事への余韻もまずまずに、会話を始めた。
「はっはっは! で、家の本に巻き込まれて気付いたら俺の書庫に? ……っはっはっは! 馬鹿じゃねえの!」
「笑うな! こんなかび臭い場所に放り込まれた私の気持ちにもなれ!」
「まぁバチが当たったんだろうな、俺の宝物を燃やしたりするから」
「あれは……、どうして燃えたんでしょうね」
「どうしてもこうしても、まずは謝罪からだと思うけどな。恐ろしい罪名が何個か貰えるぜ、あれ」
「ぐっ……。……あ、あんな本を持っている方が悪いんです、本に知識を吸われた愚かな愚者は、欲望のままにその膨れ上がった未開発の部位をけたたましく掲げて……」
「……え? ……何て?」
「……な、何でもありません!」
うっかり小さい時に見た官能小説の文を、そのまま喋ってしまうと言う情けなさすら覚えるミスを噛ましてしまった。
だって男女で手と手を取り合って見詰め合っている二人が表紙だなんて、少女漫画と思うのが普通でしょう。そんな少女の私を裏切る様に、スケベな字の塊がすらすらと書かれているなんて思いもしない。
しかも所有者が母親で、古い本だったのかカピカピだったのだから不快な気持ちとなった事を鮮明に覚えている。この目の前の男も、私の両親も、スケベな本なんて見て何が楽しいのかてんで理解不能である。
「焚書官ってあれだろ? 本を燃やしながらそれを善意と言って回る、悪徳行為の化身みたいな奴ら」
「違います。世界には存在して良い本と悪い本があります、その悪い本を燃やして回るのが焚書と言う物です」
「存在して良い本って何だよ、教本か?」
「良い本は漫画。悪い本はそれ以外の本」
「ほら見たことか! 自分のやっている事を正義と信じ疑わない、悪意全開の正義を押し付ける悪徳業者じゃねえか!」
「な、何て物言い……! 本なんて見ていたら考え方が固定されて、いずれ侵食され馬鹿になるだけです! 侵食された者はほうきで空を飛びたがる! 子供に行きたくも無い東大に行かせようとする! 一日中くだらない内容のジョークを聞かされる! そんなあられもない馬鹿が世界にここぞと増える前に私が文字を消して見せます! 世界には漫画があればそれで満足するのです!」
「何言ってんだお前馬鹿じゃねえの!? バーカ! バーカ! それにお前がさっき燃やした本の大半は漫画だったんだぞ! 早速自分に反した行動を取った事についてはどう思う!」
「いえ、エロは悪です。漫画だろうと俗物です。燃やしてしかるべき正しい行為をしたと自分を信じています」
「……良いだろう、男のリビドーに爪を立てて引っ掻き回したお前の罪は評価してやる。だからなぁ……」
どこからかもわからない場所から取り出し、偽者の刀をゆらりと持って見せた。
「やっぱりあなたは男の子だ、そんな模造刀一本持ったくらいで自分が無敵だと錯覚する病気を持っていらっしゃる。いやでも大丈夫ですよ、それは成長期の男の子になら誰にでも発症する可能性のあるものだから恥ずかしがらなくても問題は無いんです。これからの発言は自分の黒歴史になると言うことを存分に理解して行動しないと後々痛い目を見るのは自分なん……、ですよ……? あ、あの……、もしかしてそれ本物……?」
「だとしたらどうする?」
あ、これ漫画で見た奴だ。一人の異彩を放つ転校生に対して対抗心を燃やしてしまい「俺と決闘しろ」と対決を申し込むシーンだ。
ならばよろしい、こっちから行きましょう。
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