第2話 追手

 目を覚ますと視界には木でできた天井があった。


「嬢ちゃん、起きたかい」


 だ、誰?体を起こすと横に立っていたのは中肉中背のひげまで茶色のおじさんだった。


「これ飲むといいよ」


 そう言っておじさんは私に暖かいスープを渡してくれた。

 それによく見ると私が横になってたのはベッドで布団まで丁寧に体にかけられている。


「あ、ありがとうございます…………」


 私はスープに口を付けた。

 うん、すごくおいしい。私はしばらく無言になりながら夢中でスープを飲み干した。よく考えたら昨日の夜から私何も食べてなかったっけ。


 そして空になったコップを手に私はおじさんに話しかけた。


「あ、あのわざわざありがとうございます…………」


「いいんだよこれくらい。わしだって昨日嬢ちゃんが夜中に急に訪ねてきた時は驚いたもんだ」


 夜中に…………ああ、そうか。

 昨日は壮絶な一日だった。この世界が魔法の実力で全てが判断される世界である事を知って、私は魔法の適性が0。この世界において全く価値のない存在だって分かったんだもの。

 それで確か森の中をまっすぐ進んでここに来たんだっけ。だったらここはまだ森の中でリンドブルム王国なんだ。


「嬢ちゃんどっかの貴族かい?」


「え?」


「何を驚いておる。それだけ上品な服を着ておれば一目で貴族だって分かるわい」


 確かに私の服装は城の中で着ていたお気に入りの白のドレスだった。だけど今ではそんな綺麗なドレスも見るも無残に所々泥で汚れてたり破れたり…………ッ!!


 私は慌てて布団で自分の体を隠した。

 というのも破れたドレスの隙間から肌とか下着とかが見えていたのだ。


「み、見ましたか…………」


「みみみ、見ておらん!!!それより服も準備しておいた。早くそれに着替えい!!」


 おじさんは片手で両目を多いもう片方の手で机を指さした。そこには女の子用のスカートと長袖の服が用意されていた。


「あ、ありがとうございます」


「ああ」


 おじさんはそのまま部屋の扉を閉めて部屋を出て行った。


 私は立ち上がり机の上に置かれた服を手に取る。以外にデザインが可愛いことに驚き。

 そのままボロボロになったドレスを脱ぎ私は下着姿になった。今まであまり気にしてこなかったけど肌もすごく綺麗だな……胸は……

 うん、日本にいた時も大きくなかったし問題ないね。

 私は長い銀髪を手で纏めながら服を起用に着こなした。

 スカートは膝上でドレスよりも断然動きやすい。


 そして着替え終わったことを報告するべくドアノブに手を掛けた時、扉の向こうから数人の話声が聞こえた。


「おい、貴様。本当にここにリオン・リンドブルムがいるのか?」


「ええ、間違いありませんよ。何せあの銀髪はここいらじゃあ珍しいですから。それで兵士殿、報酬金はいつ頃…………」


「リオン・リンドブルムを捉えてからだ」


 聞こえてきたのはおじさんとリンドブルムの兵士の会話だった。

 会話内容は明らかに私を捕まえる趣旨の内容。つまりあのおじさんは私が寝ている間に兵士を呼んだんだ…つまり初めから私が城から逃げてきたリオン・リンドブルムって知ってて……


 すると兵士の甲冑の音が徐々に近づいてくるのが扉越しにも分かった。

 このままじゃ摑まる…………そう思った私は窓を開けて素足のまま全力でその場から逃げた。


 背後からは騒ぎ声が聞こえる。

 そして後ろを振り返るとリンドブルムの兵士とバッチリ目が合った。


「いたぞ!!捕まえろ!!」


 三人の兵士が全力疾走で私を追いかけてくる。

 そこまでして私を捕まえたい理由、それは多分私の存在自体を消したいから。私みたいなこの世界の欠陥品が王族にいたこと自体が世間に知られたくないんだと思う。

 何でこうなるの…………


 しかし私は次の瞬間絶句した。

 私を追いかけてきている兵士が走りながら魔法の詠唱を始めたのだ。

 詠唱の内容から考えられる魔法は土属性魔法、水属性魔法、風魔法の三種類。土属性魔法は私の動きを封じる束縛系だけど水、風属性の魔法はどれも攻撃魔法、私を狙っての魔法。


 私は魔法学の教科書を何冊も読み返してたから詠唱の内容だけで魔法の属性や系統が分かるけどそもそも私自身が魔法を使えないから防ぎようが………


 そして兵士三人の詠唱が完了した。

 次の瞬間足元の地面が隆起しバランスがとりずらくなる。そこに追い打ちをかけるように水の斬撃、突風が私に降り注いできた。


 私は半分諦めながらも無我夢中で背を向けながら走り続けた。

 あれ?

 しかしいつまでたっても私に魔法は当たらなかった。

 不思議に思った私は後ろに振り替えると魔法は私に当たる瞬間に霧のように霧散していったのだ。

 これには私だけじゃなくてリンドブルムの兵士も驚いてるみたい。


「何故だ!!魔力0のはずだぞ!!」


「聞いてた話と違うじゃねえか!!」


「待て!!」


 いや、何が何だか分からないけど『待て』といわれて待つわけないでしょう。

 私はその後も魔法が私に当たる瞬間に霧散する光景を目にしながらも必死で逃げた。



 リンドブルムの兵士は魔法を使いながら走っていたから体力の消耗が早かったのだろうか、私は何とか木々の隙間も利用して撒くことができた。私は周りを警戒しながら大きな木の陰に身を潜めた。


 それにしてもどうして私は魔法攻撃を喰らわなくて済んだんだろう……


 私は確認の意味も込めて『能力確認』と口にしてウインドウを開いた。




 ===========


 名前 リオン・リンドブルム

 レベル 2

 攻撃 9

 防御 8

 俊敏 14

 魔力 0

 能力 魔力適正無効


 ===========



 全力で走ってたからか俊敏の数値が二桁になってる。

 でもそれ以外、魔力はレベルが2になった今でも0のまま。だったらどうして魔力が0の私が魔法攻撃を防ぐことができたのか……思い当たる可能性としては能力の魔力適正無効が影響してるとしか考えられないよね。

 たしか能力って魔法に大きな影響を及ぼす反面自分の身体にも影響を与えるんだっけ。例えば水属性付与っていう能力であれば水中呼吸能力の上昇とかメリットもあったはず。だけどその反面風属性魔法の攻撃を受けた時の身体へのダメージが大きくなる。

 ごくまれに魔法系統の能力を三つ持っている人なんかもいるって魔法学の教科書に書いてあったっけ。

 つまり私の持ってる魔力適正無効っていう能力も私の体に何らかの影響を及ぼしてる?

 言葉のまま能力の内容を捉えるとしたら魔力の適性が効かないってこと……つまり私自身魔法が一切使えないけどその代わり魔法の影響も受けないってことなのかな。

 これは試していないと分からないや。



 私は考えることを一度中断して立ち上がった。そして森を抜けて隣国のルーブル王国に行くべく再び歩き出した。





 ・・・


 森を歩いてどれくらいが経っただろう。

 素足ということもあって歩くのには一苦労だしおじさんの家に入ってしまったせいで方向感覚も滅茶苦茶。

 私はただひたすらに森の中を歩きつ続けていた。


 そしてあたりも暗くなり月明かりを頼りにして森を進んでいくと明らかに人工的な光がともっているところを発見した。

 私は最後の力を振り絞って光のさす方まで歩いて行った。

 そこは明らかに町だった。リンドブルム王国に比べれば確かに小国みたいだけど確かに目の前には西洋風の街並みが広がっていて町と呼べるものがそこには存在した。

 ここがルーブル王国?

 私は取り合えず町に足を踏み入れた。街灯が道を照らしていて夜なのに出歩いている人も多い。それによく見ると腰に剣をぶら下げたりローブに身を包んでいる『冒険者』のような人も沢山いた。

 私はそんな人たちを目で追いながら町を見て回った。

 そして噴水のある広場のベンチに腰かけた。

 久々に落ち着ける……そう思った私の意識は自然と薄れて行った。



 ・・・


「大丈夫?」


 ??

 私は重い瞼を強引に開いた。そして両目で目をこすってようやく声の主が視界にハッキリと映った。

 私の肩に手を当てて起こしてくれていたのはに高校生ぐらいの女の子。服装も整っていて大人っぽい印象。


「あなた、こんな外で寝ていたら風邪ひくわよ?」


「は、はい…………」


 私はいつの間にか横になっていた体を起こした。よく見ると日はもう上っていて時間帯で言えばお昼前くらいになっていた。


「あなた、ここでは見ない顔だけど家は?」


「えっと……私流浪の旅人で、家はありません」


 ちょっと強引だけどこれならこの場はしのげるはず…………


「旅人?それにしては軽装じゃない?」


 私を見る目が徐々に胡散臭そうになってる……確かに旅人にしては服装がラフ過ぎたかも。


「あ、はい。旅といってもそんな大層なものじゃないですし……」


「まぁいいわ。あなた家がないんだったら家に来る?」


「い、いいんですか?」


「ええ、どうせ家には誰もいないだろうし。それにあなたに声を掛けておいてそのまま放置するのも私の良心が傷つくわ」


 でも……また私を狙ってるとか、考えられなくもないよね。

 私は森で出会ったおじさんのことを引きずって疑心暗鬼になっていた。正直当然のことだと思う。


「どうしたの?」


「あ、いえ…………その」


「心配しないで。親だっていないから口出しなんてされないわ」


「で、でしたらお邪魔します」


 私は結局、彼女の誘いを引き受けた。

 完璧に不信感がなくなったわけじゃないけど、このままここにいても私ひとりじゃどうにもできなかっただろうし……

 ただ私自身誰かを信じたかっただけかもしれない。

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