第3話 冒険者

 彼女の名前はメル。

 メルが家に案内してくれるまでの道のりでそう教えてくれた。

 メルの家は私がいた広場から少し離れたところにある一軒家で両親はいないみたい。

 私自身メルの両親がいない無理について聞こうとは思わなかったから話を掘り下げようとはしなかった。メルは私に対して料理まで振舞ってくれた。


 二日ぶりの料理は凄くおいしかった。

 そしてご飯を食べて少し落ち着いた空気になるとメルは机を挟んで私の向かい側の椅子に腰かけた。


「そういえば、あなた名前は?」


「わ、私は…………リオンです」


「リオン…………。私てっきりファミリーネームを持った貴族の人かと思ってたわ」


 !?

 メルの言葉にリオンは驚いた。


 今の私はドレスだって来てないし大体ベンチで野宿してた子をどうして貴族だなんて……


「ど、どうしてメルさんはそう思ったんですか?」


「どうしてってリオンの食べ方が凄く上品だったから、もしかしてって思っただけよ」


 ま、まさか食べ方で判断されるとは思ってなかった………今度からは気を付けないと。

 リオンは内心そう思った。

 そしてリオンは気になっていたことをメルに尋ねた。


「あの、メルさん。ここってルーブル王国ですよね?」


「ええ、そうよ。でも王国って言うのも名ばかりでね実際国王様なんて人はいないのよ」


「国王がいない?でしたら誰がこの国を?」


 この世界では沢山の国や町が点在していてそのすべてに国や町を代表する人が必ず一人いるって私は王国で教わっていたからメルさんの言葉を疑問に思った。


「この国の代表はギルド総長、別名ギルドマスターって人よ。だからこのルーブル王国は完全な中立国家でどこの王国にも属さないギルドマスターが代表を務める名ばかりの国家」


 ギルドマスターが代表の国家か………


「その……隣国のリンドブルム王国はどういった王国ですか?」


 私はあまりにも外の世界の情報を持ってない。一応王国で多少の地理的情報は学んだけどそれでもまだまだ足りてない。だからこの場を借りてまずは情報を………


「リンドブルム王国ね………あの王国はあまりいい印象は無いわ」


「ど、どうしてですか?」


「王国の政策があまり良くないのよ。この世界は確かに魔法の実力が重視されるわ。でもリンドブルム王国はそれが過剰すぎるのよ。王族に生まれた子供は魔力値が高い水準じゃないといけないって決まりもあるみたいだし。それに今の王妃も何人目だったかしら………」


 何それ………

 父は、あの人はそんな簡単に子供を今まで見捨てきたの?それに何人目ってことは私の母も………

 私はそのことを知って許せないと思った。

 私自身がひどい目にあったことよりも母がまるで道具のようにしか扱われていなかったことに怒りを覚えた。

 そんな私の心はいつしかあの男、クロメシアに対する復讐心でいっぱいになっていた。


「リオン?大丈夫?顔色が悪いわよ?」


 気づけばメルがリオンの顔を心配そうにのぞき込んでいた。


「だ、大丈夫です」


 それに対してリオンは無理にでも笑顔を作って誤魔化した。


 そしてその後はほんの少しこのルーブル王国について話を聞いてメルさんの提案もあって今晩はここに泊めてもらうことになった。


 リオンはメルが準備してくれた布団の中でずっと考え事をしていた。

 それはどうやったらクロメシアに復讐できるかというもの。


 今の私では復讐なんてものは出来ないことは明白、でも何年か経てば必ず実行できると思った。


 そのために私はまず力を付けないといけない。いつまでもレベルが低いままでいいわけない。


 リオンは非力だ。

 魔法の世界で魔法が使えない体。それはこの世界での存在価値がないということを意味する。故にリオンは自分の力を証明しクロメシアにふ復讐することを胸に誓った。


 幸いこのルーブル王国ににはギルドと冒険者制度が存在してるし、メルさんの話だと冒険者になるための登録は無料でできるみたいだから特に問題はないと思う。


 あと残るは服装と武器だけど……私は魔法が一切使えないから何か別の武器が必要だよね。

 それにいつまでもメルさんの家に泊めてもらうわけにもいかないし……やっぱりこの先必要になってくるのはお金。

 借金をするのは正直気が引けるけどそうしないと何も始まらない。

 こうなれば地道に一つずつ取り掛かっていかなくちゃ。



 翌日私はメルさんにお願いしてお金を貸してもらった。

 この世界は共通通貨で金貨、銀貨、銅貨の三種類が流通してる。金貨は高額だから一般の町や村ではめったに流通しないみたい。

 そんな中で私はメルさんに無理言って銀貨を十枚も借りた。日本円で言えば一万円……結構高額。すぐに返すとは言ったけど正直どれくらいの期間がかかるか私も分からない。


 その後、私は早速メルさんから借りたお金を使って武器と冒険者用の動きやすい服を買った。魔法が攻撃の基本になっている世界だから剣はすごく安く手に入るみたい。

 結局私が準備した武器は特に目立った特徴も無い普通の直剣。銀貨三枚に見合ったそこそこの耐久力を持ってる。


 ちなみに装備品の耐久地や付与状態、固有魔法は『能力確認』のウインドウで見ることができる。

 付与状態は自分の魔力を武器に流し込んで同じ能力を武器に与えた状態のこと。固有魔法は読んで字のごとく個が有してる魔法のこと。

 武器にもその固有魔法が宿ることもあるしこの世界のほとんどの魔物が固有魔法を絶対一つは持ってるみたい。

 例を挙げるとしたらスライムが切られても再生できるのは『再生』っていう固有魔法をもってるから。


 こんな少ない予備知識しかないけど私は早速冒険者ギルドに足を運び冒険者登録を済ませた。

 そして私は今の自分に合った簡単な依頼を受注し森へと向かった。


この世界の魔物は絶対に固有魔法を持っている。ランクがCの魔物、例えばスライムですらも。

 魔法という点だけで見ればこの世界での私の存在価値はスライム以下って……

 うん、考えるの辞止めよう。


 ギルドのお姉さんいわく魔物にもランクが存在してA、B、Cの三段階でランクわけされてるみたい。中には特A級なんて個体もいるみたいだけど滅多に現れない個体だから気にすることは無いとのこと。


 本当は私もパーティーを組んで依頼を受注したかったんだけど、そこにもこの世界の大きな壁があった。

 ギルドでは常時パーティーメンバーの募集があれば掲示板で張り出されるのだけどそれのほとんどに魔力値が三十以上とかの条件が課せられていた。

 私は魔力値が0でどこにも入れなかった。

 でもパーティーに入らないぶん自由に行動できるし報酬金は全部自分のものになる。だから良くも悪くも一人は都合が良かったかもしれない。


 そして今、私が受注した依頼は森の迷宮探索。迷宮の浅い階層は出てくる魔物のランクもCぐらいだからレベル上げにはもってこいの場所。


 迷宮っていうのはこの世界の至るところに点在する自然の建物のことで、どれも深い階層まで存在する。そこにはA〜Cといった幅広いランクの魔物がいて天然の修練場とも呼ばれてるみたい。


 私はそのうちの1〜5階層のランクCの魔物を相手にすることにした。


 迷宮内は光る鉱石が至るところにあって灯りには困らない。

 そのまま私は1階層を回っていると早速魔物が現れた。

 相手はメイスを片手に持ったゴブリン。

 ゴブリンも固有魔法で『隠密』っていう身を隠す魔法を常時使って行動してるはずなんだけど……目の前に出てきたゴブリン二体以外には岩陰に一体、更に奥に三体……隠密の固有魔法が意味の無いくらい私にははっきり分かった。


 多分私の魔力適正無効はありとあらゆる魔法という概念そのものを無効するもの?


 ……でも今は考えてる暇はない。


 リオンは腰にぶら下げた直剣を鞘から抜いて構えた。


 一応王国では魔法学が学べなかった頃に剣術とか騎乗なんてものも学んだ。

 元々私は生前の日本でも運動は好きだったからむしろ剣術なんかはすごく楽しかった思い出がある。


 リオンは向かってきたゴブリン二体に対して正面から剣を振り下ろした。

 しかしそんな安易な攻撃は簡単に一帯のゴブリンのメイスによって受け止められる。


 ゴブリンは知能指数があまりにも高くない。それでも集団で行動すればそんな知能の低さも補える。

 つまり私が攻撃をした瞬間にできた隙きをもう一体のゴブリンは必ず狙ってくる。

 

 リオンは自分の持ち合わせる情報を繋ぎ合わせゴブリンの攻撃の一手先を予測する。


 ………予測できれば問題は、ない!!


 リオンの予想通り一体のゴブリンがメイスでリオンの剣を受けたとき、もう一体のゴブリンはリオンの後ろに回り込んでいた。


 リオンはすぐにその場から退き背後からメイスを振り下ろしていたゴブリンはリオンのいた場所の空を切った。


「グエッ!?」


 驚きの表情を浮べるゴブリン。


 リオンはそんなゴブリンに問答無用で背後から剣を突きつけた。


 目の前にいた一体のゴブリンは剣に体を付きぬかれ動かなくなる。

 そして私はすぐに剣を抜き、もう一体のゴブリンに対しても剣を突きつけた。

 王国で学んだ剣術を生かせばゴブリンなんて簡単に始末できた。


 岩の影や奥から私の様子を伺っていた四体のゴブリンのうち一体は洞窟の奥に消え、残りの三体は恐る恐るといった感じで私の前に姿を現した。


 リオンの戦術に驚きの表情を浮かべるゴブリンはそれでも無謀にリオンへと攻撃を仕掛けた。


 そこからは私の一方的な攻撃で決着がついた。今倒したゴブリンは近接攻撃になれてない感じだった……

 多分今まで見て戦ってきた冒険者のほとんどが魔法の遠距離型だったからだと思う。

 私みたいに一切魔法を使わずに単純な剣での勝負の実践経験がゴブリンにもなかったことが一番の勝因かな。


 私は今の戦闘でレベルがどれだけレベルが上昇したか『能力確認』のウインドウで確かめることにした。




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 名前 リオン・リンドブルム

 レベル 5

 攻撃 18

 防御 8

 俊敏 17

 魔力 0

 能力 魔力適正無効

 装備 リトンソード


 ===========




 レベルが2〜5に上がってる。

 攻撃の数値も二桁になった。

 私もまだまだ体は疲れてないから上出来だと思う。

 レベルが5にもなって魔力値が0のままってことは多分これからも0なのかな。

 魔法をこれから使えるようになるとは思わないほうがいいかも……


 確か各階層の十の倍数ごとには階層主?っていう大型魔物がいるみたいだけど今の私のレベルじゃ相手にならないね。

 予定通りこのまま1〜5階層を回ってレベル上げしよう。

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