本当に書きたいもの

美作為朝

本当に書きたいもの

 作家志望の青年、高橋巧はいつものファースト・フード店でSサイズのソフトドリンクを飲みつつノートPCを開きつつ唸っていた。

「本当に書きたいものねぇ、、、」

 ここから、実際の小説でも思考、プロットともに何一つ進んでいなかった。


「死ね、この外道め」

板金鎧を着用した<ホッグ>こと、サー・ナバラス・ゲントスの戦斧がカタリィ・ノヴェルの頭上を舞う。

 電子の天使でありありとあらゆる生き物の脳内ニューロンを旅できるカタリィ・ノヴェルが毒づいた。

「危ねぇ、、、」

 それと同時に山の上から白銀の鎧を纏った機械鎧の騎馬部隊が山の坂を降りつつ突撃する。

「ここには居られないわ、だけど、派手にやってるね。良いと思う」

 カタリィ・ノヴェルはニヤリと笑うと0と1に自分を分化し違うサーバーへ飛んだ。


「だから、あんたとは付き合ってられねえっての」

 2年C組の夢野冴子ゆめのさえこがカバンで2年A組の柴田攸しばたゆう

背中をドーンと叩いた。

「痛いよ、サエ、、」

 柴田攸はよろめいて渡り廊下の柱にぶつかりそうになった。

「あのロボットちゃんと直さないとあんたが私にしたこと学校中に全部バラすからね」

「ひえぇぇぇぇぇ」

 柴田攸の悲鳴が続く。

 それをブレザーの制服を着たカタリィ・ノヴェルが校舎に隠れて見ていた。

「なんちゅー女だ。ああなったら終わりだね」

 カタリィ・ノヴェルは言う。

「ロボットってなんだろう、気になるんだけれど、この女子校生キャラはあんまり好きになれないわ、、でも、いいねぇ、こういうのもありだと思う。良いと思う」

 カタリィ・ノヴェルの01化で更に飛ぶ。


 雪のためこのホテルに缶詰めにされた全宿泊客を食堂に集め、端正な顔立ちの名探偵・招興寺勝五郎しょうこうじかつごろうが言い放つ。

「すべての謎は解けました」

 従業員まで集められた豪奢な食堂にどよめきが起こる。

 ホテルの従業員の制服を着たカタリィ・ノヴェルも驚愕の表情を浮かべ慄く。

「おおおおお、なんちゅー」

 招興寺勝五郎はにやりと笑い続けざまに言う。

「この中に犯人は居ます」

 カタリィ・ノヴェルはじりっと一歩下がる。

「全然覚えてないけど、私がやちゃったかもしれないし。逃げなきゃ」

 カタリィ・ノヴェルの01化は一瞬だ。ホテルの外の雪も壁もなんにも関係ない。

 

 カタリィ・ノヴェルは電子の海を泳ぎ、電子の空を飛び、電子の宇宙をワープする。

「みんないろいろ書いてるね、そして創ってる」

 カタリィ・ノヴェルはひとりごち、微笑む。

「うん!?ここは?」

 カタリィ・ノヴェルがたどり着いた場所には、なにもない。二次元の白い平面だけが永遠と外縁のはてのはてに向かって続く。

 カタリィ・ノヴェルは周囲を遠くまで見つめるがなにもない。

 ただ、


『本当に書きたいものねぇ、、、』


 という言葉だけ、カタリィ・ノヴェルの頭にだけ響いてくる。

 カタリィ・ノヴェルが大きく手を広げて作り出した画面には書きたいものをテーマを探し悩んでる高橋巧の真剣な表情だけが大きく映し出されている。

 カタリィ・ノヴェルはネットやPCのテキストエディターだけでなく、お話しを考える思考の中にさえ入り込むことが出来る。

 物語の創りの天使カタリィ・ノヴェルは語りかける。

「物語を創るため、悩み考えることも重要な創作活動だよ、、、良いと思う」


 それから間もなく、高橋巧はノートPCのキーボードをとつとつながら叩き始めた。


 カタリィ・ノヴェルはそれを笑顔のまま見続けた。 

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