4月11日(木) ある日の部活風景①
こんにちは、菊池詩音です。
好きな食べ物はグラタン、嫌いな食べ物は虫のような見た目のもの全般。得意教科・苦手教科は共になく、クラスでは真ん中辺りの成績を保っています。
血液型はA型。綺麗好きが功を奏して、現在はバドミントン部の女子マネージャーとして活動しており、ちょっと気になる人との近くで過ごせているため毎日が楽しいです。
そんな私が、今日はバド部の日常をお届けしたいと思っています。
まずはメンバー紹介から。
男子バドミントン部は総勢三十二名。一年生から順に六人、十七人、九人います。
同じく女子バドミントン部は三十三名。各十二人、十四人、七人いて、全体で六十五人です。
そこに私たちマネージャーが七人おり、皆でバドミントン部として活動していますね。
とは言っても、そんなに多ければコートは足りません。
ですので、一年生は余程上手な子でない限りみんな外で走り込みなどの基礎練習に励んだり、風の通りにくい屋外でラリーをしている事が殆どです。
蔵敷くんなんかは、最初の一年間ずっとボヤいていましたっけ……。
けれど、それでも男女の二・三年生だけで四十七名。コートは八面しか作れないため、これでも厳しいです。
というわけで、男女ともに学校生活最後の年でもある三年生が二面ずつ使用し、レギュラー入りをしている男女の二年生らが一面ずつ。残った各一面を残りの人達で使っていく仕様になっていますね。
では、続いて私たちの仕事を紹介しましょうか。
♦ ♦ ♦
「――あ、詩音遅いよー」
「ごめんね、今日も七時間目の授業があって……。どこまで終わった?」
Ⅱ類やⅢ類にはない、七時間目という追加のカリキュラムを終わらせて急いで部活に向かうと、同じマネージャー仲間の
「えっとね、体育館で補助をしているのが三人、一年生の様子を一人が見てて、私たち二人が部室の片付けしてた」
そう言って隣の男子部室に目をやると、丁度よく三年の先輩マネがゴミを袋にまとめて外に出てくる。
「
「おー、詩音ちゃんお疲れ。……ってことは、翔真くん達も来る?」
「はい、もうすぐだと思います」
私はマネージャーだから、と先に一人で来たけど、その後ろを翔真くんと蔵敷くんは喋りながら歩いていたはずだ。
「おっけー。じゃあ、掃除の途中だけど一旦部室を明け渡しましょう。……あと、いつものアレをやっちゃいましょうか」
結菜先輩がそう提案すれば、すごく乗り気な美優。
「いいですよ、負けても恨みっこなしですからねー」
私も、口には出さないけれど心は闘志で燃えていた。
『最初はグー、ジャンケンぽん――!』
互いが互いを牽制し、勝負手を繰り広げる。
数度のあいこの末、勝ったのは私だった。
「うあー、負けた。男子部室の掃除係も負けたし、今日はコレに懸けてたのにー」
悔しそうに、美優は項垂れる。
「嘘でしょ……。今日は星座占いで牡牛座が一位だったのに……!」
結菜先輩も敗着となった握り拳を見つめていた。
「お……詩音さん、美優さん、結菜先輩。いつもありがとうございます」
そこへ、遅れて到着した翔真くん――と、蔵敷くん。
その瞬間に、私達は今までの態度を改め、凛とした姿勢で挨拶を返す。
「あら、翔真くん達も勉強お疲れ様。まだ途中だけど、部屋は綺麗にしているから」
「翔真くんこそ、部活頑張ってね!」
あまりの変わり身の早さに男子は驚くかもしれないけれど、女子の中ではこれは普通だ。
かくいう私も、ちゃんと声は掛けておく。
「じゃあ、時計とか準備しているから着替え終わったら校門前に来てね」
「うん、よろしくね」
バド部では毎回ウォーミングアップとして校舎の外周を走り込み、坂道ダッシュをしている。
そのための連絡事項だったが、それに対しても翔真くんは笑顔で返してくれた。
扉が閉まり、誰も見ていないことを確認し、私達は悶える。
「ありがとう、って! 翔真くんからお礼を言われたー!」
「ホント、一年の頃から女子マネを続けてきてよかったわ。神様っているのね……」
「タオル、ドリンク、タイマー……ちゃんと持っていかなきゃ」
美優、結菜先輩と、もうテンションは上がりまくり。
持っていくものを確認して真面目ぶってはいるが、私の鼓動も凄かった。
今日もマネージャー、頑張ろう!
♦ ♦ ♦
ウォーミングアップが済み、二人とも室内へと練習場所を移れば、私の仕事も一段落。
マネの二人も部室の掃除をあらかた終えたようなので、ドリンクの補充や使い終わったタオルを纏めて回収・洗濯機に放り、同様に体育館を目指す。
中に入れば、運動によって生まれる熱気とシューズが床との摩擦で生むキュキュという音を感じた。
昨日から入部した一年生マネージャーの
「じゃあ、私は倉庫の様子を見てくるから」
結菜先輩はそう言うと、奥の道具が入っている部屋へと駆けて行った。
「私達はどうするー?」
「とりあえず、ドリンクと荷物を置いてシャトル拾いをしよっか。その後は……なんか流れで」
「了解」
美優が尋ねてきたので思いつきの提案をすると、額に指先を揃えた手を掲げ、敬礼を示す。
その後は、部活が終わる七時まで似たような仕事の繰り返し。
シャトルの管理をし、先生の補助をし、手が空けば使用されたタオルやドリンクを補充する。
練習試合や大会前でもない限り、私たちの仕事はいつもこんな感じ。
「……先輩、アレいいんですか?」
そんな部活終わりの時。
一年生部員と協力してコートの片付けを行っていると、新人マネの子らからそんなことを聞かれた。
指差しされた先を見ると、かなちゃんが蔵敷くんにドリンクとタオルを渡している。
まるでマネージャーみたいに。
「確か、マネージャー以外の子が部員に差し入れするのって禁止……でしたよね?」
そう。珍しいかもしれないけど、このバド部ではそんな暗黙のルールが存在する。
だって、そうしなければ毎日のように大勢の子が翔真くんに群がってしまうから。
「うん、そうなんだけど……あの子はいいの。ほら、先輩達も特に気にしていないでしょ?」
反対に私が先輩マネを指差して、その様子を見せてあげる。
「また、あの子か……」という呆れた笑みを浮かべてはいるものの、誰も注意をしようとはしていない。
「はぁ、分かりました……。けど、何でですか?」
「元々は翔真くんのためのルールだからね。かなちゃんは見ての通り蔵敷くんにしか接さないし、仕事の邪魔をするわけでもないし、むしろたまに手伝ってくれるんだ。だから私たちの間では、かなちゃんは裏マネージャーみたいな扱いなの。」
『へぇー、そうなんですね』
綺麗にハモる二人。
納得してくれたようで良かった。
「さ、部活が終わっても私たちの仕事はまだ残ってるよ」
その様子を見つめる彼女らを促し、私も自分の役割を果たしに戻る。
それがこれ。
使用されたタオルなどの洗濯物とドリンクの容器を洗う作業。
とは言っても、幸いこの部活には洗濯機があるため予約で明日の朝に終わるように仕込むだけ。
その際の洗剤や柔軟剤の入れ方等を新人に教え、皆で分担して容器を流しで洗い終えれば私たちのお仕事は全部終わりだ。
「それじゃあ皆、今日もお疲れ様!」
ハツラツとした声で話す、ボーイッシュな先輩――マネージャー代表でもある
『お疲れ様です!』
そう互いに言い合って挨拶を交わせば、今日の学校生活は終了。
家でプライベートな時間を過ごすわけである――けれど、私にはまだ少し猶予があった。
「詩音さん、お疲れ」
そのまま帰路へとつく途中、校門前でいつものように声が掛けられる。
そこには通学用の自転車を押した翔真くんの姿があった。
「うぅん、こっちこそいつも待ってくれてありがとう」
いつからだっただろう。
過去に一度だけ帰りが鉢合って以降、彼とこうやって一緒に帰るのが常になっていた。
運良く、私たちの帰る方向は途中まで一緒のようで、少しの間だけどお話をしていられる。
「それじゃ――俺はこっちだから」
「うん、またね」
手を振り、別れても私の心臓は高鳴っていた。
見上げれば、茜色と紫色と紺色――夕暮れから夜空へと変貌するグラデーションが一望できる。
私はこの瞬間に見る星空が好きだ。
一等星しか見えないけれど、それ以上の煌めきを感じていられるから。
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