第10話 アリ寄りのアリ!

 皆さんご機嫌よう、最近調子はどうだい?ん?俺かい・・・俺はもう絶好調さ!ごめんなさい、嘘です。

 ははは、俺が誰に語りかけてるかなんて些細なことさ・・・もうね、色々と無理なんです!正直あっぱってます!!

 今日までに俺に起こった事を聞くかい?死んだと思ったら姉がハマってた乙女ゲームの世界だわ、だけど想像してたのと何か違うわ、俺が乗り移ったキャラ自体DVクズ野郎だわ、実家にはマゾが居るわ、外にでたらナルシストに絡まれるわ、見た目美少女中身ミザリーな奴にストーカーされるわ、寮の部屋は友人(イケメン)とその姉(ナイスバデーの美人)のSOSOUで臭うわ・・・今日から夢の転生学園生活が始まるはずがどうしてこうなった!?

 くそ・・・俺様初登校だと言うのに、周りの奴等の視線が痛いぜ!蒼玉と紅玉はトラウマになって引き篭もっちまったし、俺だけ針の筵とかやめてよね!俺のメンタルはビードロの底みたいに薄いんだからね!!


 「レオナルド様、ごきげんよう・・・昨日は大変だったみたいですわね」


 おっと油断したぜ・・・自分の境遇を恨んでたら誰かに話しかけられたわ。

 俺は声のした方を振り返り、目を奪われた・・・振り返った俺の目の前には、大正ロマーンな服装をした黒髪超絶美少女が立っていたんだ!

 その黒髪超絶美少女は、昨日俺に起こった珍事を知っているのか、恥じらう様に俯いている。

 俺が不覚にも見惚れていると、その少女は返答がない事に戸惑って小首を傾げた・・・やーだー、かーわーいーいー!!


 「あの、レオナルド様・・・私の顔に何か付いていますでしょうか?」


 「ああ、いや・・・まだ昨日の事で頭が混乱していてね、蒼玉と紅玉も心に傷を負ってしまったみだいだしこれからどうしようかと悩んでいたんだ」


 俺が取り繕う様に答えると、少女は優しく微笑み俺の手を取った・・・めっちゃ柔らかくてスベスベだよ!でも、これはいけない!奴が・・・奴がきっと来ちゃう!!


 「レオナルド様、心中お察しいたしますわ・・・私に出来る事でしたら、何でもおっしゃってくださいね」


 あっ、良い匂い・・・じゃなくて!このままじゃこの子まで奴の犠牲に!!

 俺は内心冷や冷やしながら周囲を警戒したが、不思議な事に奴の姿が見えない・・・何故だ?

 安心した俺が少女の手を握り返すと、少女の背後から一人の青年が顔を覗かせてニカっと笑った。


 「よっ、久しぶりだなレオナルド!まさか、新学期早々俺の妹を口説いてる最中だったか?」


 青年は少女の肩を優しく抱くように隣に立つと、俺に向かって笑い掛けた。

 確か、この青年もパッケージに居た攻略対象の一人だ・・・日本に似た国の良家のお坊ちゃんだったっけか?えーっと、名前は何だっけ・・・。


 「金剛兄様、冗談はおやめください・・・」


 「はっはっは!すまない、分かってるよ・・・お前が愛してるのは俺だもんな、蛍」


 おっとぉ!自己紹介ついでにぶっ込んで来やがった!?何、君達そっち系?近親的な相姦的なアレな関係?ほんとヤバい設定多いなこの世界!!家庭用ゲーム機で出して良い内容じゃねーだろ!!

 俺がメダパニを食らって混乱していると、人目も憚らずイチャついていた二人が同時に俺を見て来た・・・。


 「すまん、お前の事忘れてたわ・・・」


 「はしたない姿をお見せしてしまい、申し訳ありませんでした・・・」


 「あぁ、うん・・・だろうね。

 あのさ、良かったら教室行かないか?此処に居たら目立って仕方がないからさ・・・」


 俺は周囲の視線と、それすら憚らずに身を寄せ合っている2人の視線に耐えられず、心を無にして提案した・・・俺は転生してから色んなタイプのおかしな奴等に出会って来たんだ!心を無にするなんて造作もないぜ!!今なら新たな刺客が現れても耐え切れる自信あるわー。あまりの成長具合に自分で自分が怖くなるわー。

 俺は自分の心が壊れるのを防ぐため、内心自画自賛しながら教室へ向かう・・・そして、そんな俺の事など眼中に無いかの様に背後で相変わらずイチャつく兄と妹・・・何だこれ?


 「あっ!レオナルド様だ!!」


 「レオナルド様、昨日は大変でしたわね・・・もう大丈夫でございますか?」


 俺は余計なことを考えないように心を殺していると、うら若き乙女達の囀りが聞こえて我に返った。いつの間にか教室に着いていたようだ・・・無意識に自分の教室に入っていたと言う事は、身体が記憶していたのだろうか?

 俺はそんな事を考えつつ、心配して話しかけて来てくれた女生徒達に笑顔で頷いて見せた。


 「皆、心配してくれてありがとう。俺は大丈夫なんだけど、一緒に巻き込まれてしまった紅玉と蒼玉がまだ部屋から出て来れないくらい塞ぎ込んでしまっていて、俺は彼等の方が心配だよ・・・」


 ふっ・・・どうよこの演技力!自然な流れで紅玉達の話題に触れ、更にはそれにつれて徐々に表情に影を落としていくと言うテクニック!これはアカデミー主演男優賞も夢じゃないね!!どうだ世の男供、これがイケメン力ってやつだ!!・・・と、思いつつも内心ではわざとらしかったかもしれないと心配になった俺は、黙り込んでしまった女生徒達の表情を伺う。


 「ご友人だけでなく、そのご家族の事まで心配されるなんて・・・流石レオナルド様ですわ!」


 「なんてお優しい・・・」


 あ、大丈夫だったわ・・・女生徒達皆んな頬染めて涙浮かべながら俺に熱い視線送ってるわ・・・敢えて言おう!イケメン半端ないってもぉー!イケメン半端ないって!ちょっと演技しただけでめっちゃ持て囃されるもん・・・。そんなん転生前の俺じゃ出来ひんやん普通、そんなん出来る!?


 「何やら朝から騒がしいと思いましたら・・・また貴方ですのレオナルド?」


 俺は心の中で叫んでいたが、刺のある言葉に我に返った・・・そこにはやたらキツそうな見た目で見事な金髪ドリルを持った美少女が腕を組んで俺を睨んでいた。

 俺は目の前の美少女を知っている・・・何故なら、自分にとっては切っても切れない間柄だからだ・・・なんで知ってるかって?休暇中に調べ物してたら出て来たんだよ、情報が!!


 「あっ・・・ガーネット様・・・」


 「そこ、退いてくださらないかしら?」


 「も、申し訳ありませんっ・・・!」


 ガーネット嬢が睨みを利かせると、俺を囲んでいた女生徒達が一斉に二手に分かれた・・・モーゼの十戒を見てる気分だわ。

 女生徒達が離れたのを確認したガーネット嬢は、肩に掛かったドリルを手で払い、俺に近づいて睨む様に見上げた。


 「私と言う婚約者がいながら、目の前で他の女生徒に色目を使うとは良い御身分ですわね・・・ねぇ、レオナルド?」


 「そんな事はないよ、皆んな俺の事を心配して来てくれただけさ」


 俺が平静を装って答えると、ガーネット嬢は俺のネクタイを掴んで引っ張り、耳元で小さく呟いた・・・めっちゃ良い匂い。


 「貴方、さっき紅玉さん達の事を心配していた様ですが・・・私、貴方の本性知っていますのよ?

 お父様が無理矢理決めた婚約とは言え、私は納得していないんですのよ?必ず解消させていただきますから・・・それも、貴方が絶望する様な無残な方法でね・・・」


 ガーネット嬢は周りに聞こえないようにそう耳打ちすると、不敵な笑みを浮かべた。


 「そろそろ先生が参りますわね・・・では、ごめんあそばせ」


 俺を囲んでいた女生徒達もガーネット嬢の言葉を聞いて慌てて自分の席に戻ってしまい、残されたのは俺といまだにイチャついている金剛&蛍兄妹だけだった・・・正直、あんな美少女にあんな事を言われてゾクッとした。アリ寄りのアリだな!!


 

 



 

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乙女ゲームの攻略対象に転生したけど、主人公とのフラグを打ち折って他のキャラを攻略します。 コロ @korotas

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