第5話 三匹の変態②

 アリスに呼ばれて建物の影から出て来たのは、軽くウェーブのかかった金色の髪を赤いリボンで結んだゆるふわ系の美少女だった・・・その少女は、アリスに睨まれて若干怯えているようだ。

 俺は、この少女を見た事がある・・・『トキ学♡』の主人公様だ。

 パッケージにデカデカと載ってりゃあ嫌でも覚えますわ!美少女だしね!!


 「アリス、あの子が怖がってるから睨むのやめな・・・ごめんね、うちの変態が怖がらせちゃって」


 「レオ様、お気を付け下さい・・・あの女、先程の変態よりも格上でございます」


 「自分が変態じゃないみたいな言い方やめてくれる?君もたいがいだからね?」


 俺がアリスを睨んでいると、少女がもじもじとしだした・・・髪の色などは違うが、サーシャが成長したらこんな感じになりそうだ。

 美少女がもじもじとしてる姿って最高だね!!


 「あの・・・ありがとうございます、大丈夫です・・・」


 わお!可愛い声!小鳥のさえずりのような綺麗な声で、たいへんグッドですよ!!


 「なら良かったよ・・・あのさ、あそこに居たって事は、俺達の事見てたのかな?

 一つだけ言わせて貰うけど、俺と妹はあの変態2人の揉め事にはノータッチだからね?」


 「はい、わかってます・・・ずっと見てましたから・・・」


 「そっかー、それなら良かった!」


 俺が安心して笑いだすと、少女も控え目に笑ってくれた・・・流石は主人公、万人受けする美少女だね!!

 俺と少女が笑い合っていると、アリスが俺の服の袖を引っ張った。


 「レオ様、騙されてはなりません!上位の変態とは、自身の性癖を表には出さず、他者の油断を誘います・・・あの女が、いつからレオ様を見ていたかご存知ですか?」


 「い、いや・・・知らないけど・・・」


 俺は、背筋に薄ら寒い感覚を覚えながら少女を見た・・・あーやばいわー・・・口は笑ってるのに、目が笑ってないわー・・・。


 「昨夜からでございますわ・・・わたくしが何度か追い払ったにも関わらず、あの女は懲りずにレオ様とサーシャお嬢様の後をつけておりました」


 Oh!Jesus!!ヤバイぜ、誰も彼も変質者だらけだこの世界!!


 「あのさ・・・何で俺の事を見てたのか教えてくれないかな・・・?」


 俺は、勇気を出して少女に尋ねた。

 少女の只ならぬ雰囲気に、サーシャも怯えている・・・安心しなさいサーシャ、いざとなったらアリスを盾にしてでも守ってやるからな!!


 「だって・・・今日から長期休暇で会えなくなるから寂しくて・・・」


 「そ、そっか・・・その気持ちは嬉しいんだけどさ、俺達って何か特別な間柄なのかな?」


 俺は、涙目になった少女に尋ねたのだが、選択を誤ったようだ・・・なんだか、殺意の波動に目覚めてやがる・・・コワイ。


 「まさか、忘れちゃったの!?私と貴方は、前世から結ばれる運命なのに!!あっ、そうか!まだ前世の記憶が戻っていないのね!?」


 忘れたも何も、知りませんわそんな事・・・俺の前世は25歳の陰キャですからね。

 でも、言っちゃうとなー・・・殺されそうな目をしてんだよなー・・・。


 「だから言ったではないですか・・・先程の変態よりも格上だと。

 良いですかレオ様、こういった輩は相手にすると非常に面倒なのです・・・何を言っても、自分にとって都合の良い解釈しかしないのです」


 「君もそんな感じだけどね・・・」


 あ、ヤバイわ・・・アリスと話した途端に不機嫌になったわ・・・。


 「ねぇ、何で私以外の女と話してるの・・・?

 妹さんはまだ良いわ、だって私の未来の可愛い妹になるんだもの・・・でも、その女はただの使用人でしょ?親しげに話してるなんて許せない許せない許せないユルセナイユルセナイユルセナイユルセナイユルセナイユルセナイ・・・」


 ワオ・・・壊れちゃったよ・・・。

 慕ってくれるのも、惚れてくれてるのも嬉しいけどさ・・・ここまでイカレてちゃあ台無しだよ?

 やばい、小便ちびりそうちびった・・・。


 「いや、ほら!あれだよ!やっぱり、使用人ともコミニュケーション取らないと、いざという時に困るんじゃないかなー・・・?」


 「ユルセナイユルセナイユルセナイユルセナイユルセナイ・・・」


 「駄目ですね、今は何を言っても無駄なようでございます・・・レオ様、サーシャお嬢様と共にわたくしの背後へ」


 アリスは俺と少女の間に立つと、先程と同じようにメイド服の裾を持ち上げると、男なら自身の身体で誰もが見た事のある棒状の物体を取り出した・・・うん、何となく分かってた!


 「まさか、これを使う日が来ようとは・・・いや、貴様はこれを使うに相応しい!!受けるが良い!処女貫通剣・馬威武!!」


 相変わらずのネーミングセンスだ。

 しかも、デカさが馬並みなんですよ・・・そんなん入れたら裂けちゃうんじゃない?

 だが、アリスの怒涛の攻めを、少女は身をよじって回避する。


 「なっ!避けただと!?」


 少女は、見た目とは裏腹に連続で攻撃を回避し、アリスを睨んでいる・・・あれ?確か、この子って主人公だよね?良いのかな、主人公がこんなんでさ・・・。


 「くっ・・・小癪な!!」


 「ユルセナイユルセナイユルセナイイイイイ!!」


 俺とサーシャは、少し離れながら美女と美少女のキャットファイトを眺めている。

 サーシャは疲れてきたらしく、目をこすりながら欠伸をしている・・・癒されるし可愛い♡


 「くっ・・・なかなかやりますね!ですが、わたくしはレオ様とサーシャお嬢様のボディーガードとして雇われた身・・・本当の実力はこの程度ではありませんよ!!」


 この人、俺達のボディーガードだったんだ・・・ただの役立たずじゃなかったのね。

 俺が意外な真実に関心していると、アリスはまたもやメイド服の中から何か取り出した・・・今回は特に変な物ではなく、ただのロープだった。


 「行きますよ!これぞ、ターコイズ家に100年に渡って受け継がれし捕縛術・・・タートルシェルバンデージ!!」


 アリスは目にも留まらぬ速さでロープを操り、一瞬にして少女を捕縛した。

 何だよタートルシェルバンデージって・・・カッコ良く言ってたけどただの亀甲縛りじゃん・・・。


 「ふぅ・・・またつまらぬ物を縛ってしまいましたわ!」


 俺は、やり切った表情のアリスを見て泣きたくなった・・・だってさ、うちの使用人がただの変態なんですもん!天下の往来で少女に亀甲縛りなんて、ただの危ない人ですよ?


 「さて、この不埒者をどうするか・・・このまま憲兵へ突き出しますか?」


 「お前もついでに捕まってこいよ・・・ん?」


 俺は、縛られている少女の服の隙間から1冊の手帳が落ちそうになっているのを見て、それを手に取った。


 「嫌っ!中を見ないで!!」


 先程までイカレていた少女は、手帳を見た途端に正気に戻って涙目になった・・・嫌と言われると見たくなるのが人間だ、俺はまず手帳の裏を確認する。


 「ふーん、君の名前はルチア・クオーツって言うのか・・・すまないけど、これ以上付きまとわれたら嫌だし、中身を見て弱味を握らせて貰うよ?」


 「流石レオ様・・・ゲスの極みでございます」


 「お黙り!!どれどれ・・・ひいっ!?」


 俺は開いて内容を見ると、悲鳴を上げて手帳を落とした。


 「いかがなさいましたか?」


 「これはヤバイ!これ危険!危険です危険!危険ですよこれ!気持ちはわかりますが危険ですって!危険!大変危険な危険です!危険!危険ですよ!」


 俺は取り乱し、少女から距離を取った・・・身の危険を感じたのですよ!!

 内容がね、ヤバイのよ・・・ここ数年間の俺の一日の行動が全て記載されてんのよ?ご飯の献立とか、睡眠時間がどれくらいでトイレに何分入ってたかとかさ・・・どこから見てたん君?鳥肌通り越してハリセンボンになりそうよ?


 「なんと言う歪んだ愛でしょうか・・・流石のわたくしも、これ程の恐怖を味わったのは初めてでございます・・・」


 変態筆頭だと思っていたアリスも、流石に顔が引きつっている・・・ごめんねアリス、君以上だわこの子。


 「こいつを憲兵に突き出そう!そうじゃないと、おちおち寝てもいられない!!」


 「素晴らしいご判断です」


 俺の提案に、アリスは笑顔で頷いた。

 すると、ルチアがまた暴れ出した・・・今となっては、タートルシェルバンデージが有難い。


 「ちょっと待ってよー!私の何がいけないの!?

 私は、愛しい人の暮らしを見守ってただけじゃない!!」


 「ストーカーは犯罪です!しばらく留置所で反省して来なさい!!」


 俺とアリスは、暴れまくる少女を引き摺りながら憲兵の詰所まで行き、ドン引きしている憲兵に引き渡した後、遣る瀬無い気持ちになりながら家路に着いた・・・。


 


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