第4話 三匹の変態①
一家揃っての朝食を済ませた俺は屋敷の中を散策し、書庫を見つけて中に籠もった。
学園が長期休暇のため、可愛い女の子と出会う計画が頓挫したためだ・・・正直悔しいです!!
まぁ理由はそれだけでは無く、予備知識もないままこの世界に転生してしまったため、少しでも色々と知っておきたかったからだ・・・それに、あまり長い時間他の家族と一緒に居たら、別人である事がバレるかもしれないしね。
まず調べたのは、この世界での常識だ・・・主に歴史文化や技術、地理などだ。
技術に関しては、屋敷の中を散策している最中に、向こうでは型遅れのデザインの電話機や冷蔵庫、それに車を見つけたためそこまで大きな違いは無いようだ。
歴史や文化に関しては、剣や魔法などは一切見当たらず少しだけ残念に思ったが、今までと変わらず生活出来るならそれに越した事は無い・・・うん、残念じゃない・・・。
そして、俺は最後に地図を広げて地理について調べようとした・・・だが、そこで思わぬ邪魔が入った。
妹のサーシャが、遊び相手を探して部屋に入って来たのだ・・・可愛い。
「にーしゃま・・・あしょんで?」
舌足らずな喋り方がまた可愛い・・・。
抱きしめる
可愛がる
遊ぶ
おぉ・・・どれを選んでも天国だ!!
そうか、この屋敷はヴァルハラだったのか!なるほどね!まぁ、戦死者の館じゃないし、居るのもオーディンやヴァルキュリアじゃなくて天使だけどな!!それと変態・・・。
「どうしたんだいサーシャ、遠慮しなくて良いんだよ・・・何をして遊びたい?」
俺は広げたばかりの地図を素早く畳んでサーシャに駆け寄った・・・離れてても天使、近付いても天使ですわ。
「あのね・・・おさんぽいきたい!」
「分かった、じゃあ一緒にお外に行こうか?」
「うん!」
サーシャは満面の笑顔で俺に抱きつくと、手を引いて部屋を出て行く。
正直、資産家なだけあってこの屋敷は広い・・・庭も散歩するには丁度いいのだが、俺は敢えて外に行く事にした。
理由は簡単だ、街の人々に可愛いサーシャを見せびらかしたい・・・じゃなく、自分の住んでいる街を見ておきたかったのだ。
「あら、お2人でお出かけでございますか?」
「あのねー、にーしゃまとおそとにおさんぽいくのー!」
「それはよろしゅうございましたね。
ですが、あまり遠くへは行かれませんようお気を付け下さいませ」
俺とサーシャが靴を履いていると、モップを持ったアリスが話しかけてきた。
アリスはサーシャの前でしゃがむと、にこやかに笑ってサーシャの服を整える・・・出来る女に見えてしまうが、アリスの服はボロボロになっている。
何故モップ掛けで服がボロボロになってしまうのかと問いたい。問い詰めたい。小一時間ほど問い詰めたい。
だが、そんな暇はないのだ!天使とのお散歩が待っているのだから!!
「あまり遅くはならないと思うから大丈夫だよアリス・・・じゃあ、行ってくるよ」
「いってきまーす!」
「お気を付けて行ってらっしゃいませ」
サーシャが手を振ると、アリスも笑って手を振り返している。
普通にしていれば美人なのに、ガチの変態なのが悔やまれる・・・正直、変態じゃなければ色々と妄想がはかどゲフンゲフン!いや、悲しくなるからよそう。
「にーしゃま、はれてよかったね!」
「あぁ、今日は散歩日和だね」
俺はサーシャと手を繋ぎ、小さいサーシャにペースを合わせて歩く。
門を開けて外に出ると、そこは多くの人々で賑わっていた。
「おぉ・・・結構人が住んでるんだな。
サーシャ、人混みだと一緒に歩くのは危ないから抱っこしてあげようか?」
「うん!にーしゃま、ありがと!」
しゃがんで頭を撫でてやると、サーシャは笑って抱きつき、俺はそのまま抱き上げた。
嬉しそうな笑顔が眩しい・・・太陽なんざ目じゃねーぜ!
「あや、オニキスさんとこのレオナルド坊ちゃんとサーシャお嬢ちゃんじゃないか!今日は2人でお出かけかい?
坊ちゃんが帰って来てるって事は、学園は長期休暇なんだねぇ・・・あそこも全寮制じゃなけりゃ楽なんだろうけど、せっかく近いんだから通わせてくれりゃあ良いのにねぇ・・・帰って来れるのは長期休暇と週末だけなんだろ?」
「ははは・・・全寮制だからこそ、家族の有り難みが分かるってのもあるんじゃないですかね?」
「坊ちゃんはしっかりしてるねぇ!こりゃあご両親も安心だ!!」
道すがら、近所の人達が話しかけて来る。
皆の反応を見る限り、レオナルドは外面だけは良かったようだ・・・俺が身体をいただいたからには、二度とDVはさせねえぜ!!
それにしても、学園は全寮制か・・・という事は、休暇が終わったら天使と離れ離れに!?俺は、何を励みに生きていけば良いんだ!!
内心絶望している俺をよそに、近所の人達はサーシャを可愛がっている・・・人々を魅了するとは、我が妹ながら流石だ。
ただ、人見知りなのか、サーシャは恥ずかしそうに俺の胸に顔を埋めている・・・あぁ、幸せだ・・・ん?何か視線を感じる。
「何だ・・・?気のせいか?」
俺は視線を感じた方を見てみたが、誰も居ないようだ。
「やぁ、奇遇だねマイハニー!」
俺達がご近所さんから解放されて散歩を再開すると、すぐさま別の誰かに呼び止められた・・・どいつもこいつも邪魔をしやがる!
俺が振り返って声の主を確認すると、そこには泣き黒子のある若干タレ目のイケメンがジョジョ立ちをしていた・・・うわぁ、絶対関わったらダメな奴だ。
だが何故だろう、見覚えが・・・あぁ、あれだ・・・こいつもレオナルドと同じく『トキ学♡』の攻略対象だ。
「行こうかサーシャ・・・」
「ちょっと待てーーーーい!!酷いじゃないかレオナルド!!大親友であり、将来を誓い合ったこのアルフレッド・オブシディアンを無視するなんて許されないんだからね!!?」
「人違いです」
俺は早足でその場を離れる・・・男同士で将来を誓い合ったなどと戯言をのたまうような変態とはお近付きにはなりたくないのだ。
だが、サーシャを抱っこしていた俺は素早く動けず、変態に回り込まれてしまった・・・何でこうも俺の周りには変態が現れるのか!?
「人違いなんてとんでもない!僕の美しい顔をよく見てごらん、見覚えがあるだろう?忘れたなんて言わせないよハニー!!」
「ちょっと、近付かないで貰えますか!?大声出しますよ!天使のように可愛い妹も怯えてるじゃないですか!!」
俺はサーシャを庇いながら変態・・・アルフレッドを睨みつけた。
あ、こいつ今サーシャを見て鼻で笑いやがった。
「天使のように可愛い・・・?この美しい僕を差し置いて天使なんて、いくら愛しのレオナルドの妹とは言え許せないね!!」
屋上へ行こうぜ・・・ひさしぶりに・・・きれちまったよ・・・。
俺がアルフレッドに向かって怒鳴ろうとすると、何者かが間に立ち塞がった。
「お待ちなさい!ナルシストの変態風情がサーシャお嬢様を愚弄するとは何たる無礼!!
更には、レオナルド様と将来を誓い合ったなどとうそぶくとは万死に値します!!良いですか、レオナルド様はこのアリス・ターコイズの夜のご主人様でございます!!」
うーわ・・・変態が増えちまったよ・・・。
さては、俺とサーシャの事を尾行してたな?
俺はアリスの出現で怒りが引っ込み、変態2人の不毛な争いを眺めた。
「うそぶくだって!?使用人風情が僕に言い掛かりをつけるとは良い度胸じゃないか!パパに言いつけてやるんだからね!!」
パwwwwパwwww良い歳した男がパパだってさ!!ヤベェぜ・・・こいつ、俺を笑い死にさせる気だな!?
「ふん、大の男が情け無いですわね・・・そちらがそう来るならば、わたくしも本気を出さざるを得ませんわね!!」
アリスはそう叫ぶと、メイド服の裾をたくし上げて何やら取り出した・・・何だろう、見た事ある型なんだけど?
「これぞ、最終決戦前立腺破壊兵器・・・その名も穢捻魔愚羅でございます!!
これに掛かれば貴様のような変態はドライオーガズムのスパイラルに巻き込まれ、二度とレオナルド様の前に立つ事は叶わないでしょう!!」
もうね、他人のフリして帰りたい・・・。
「なっ!?何て卑劣な・・・!これだから女は嫌いなんだ!!」
「お覚悟!!」
「ちょっ・・・待っ!アッー!」
アルフレッドはその場に崩れ、ビクビクと痙攣している・・・幸せそうな表情だ。
アリスは額の汗を拭うと、アルフレッドを見てため息をついた。
「またつまらぬ快楽を味わわせてしまいましたわ・・・」
「お前・・・天下の往来で何ちゅうはしたない事を・・・」
「何か問題がありましたでしょうか?」
「何かって言うか、全てが問題ですよね!?」
俺はアリスを叱ろうとしたが、出来なかった・・・口を塞がれたのだ。
「レオ様、ご無礼をお許しください・・・。
そこに居るのは分かっています、姿を現しなさい!!」
俺達から10m程離れた場所にある建物に向かってアリスが怒鳴ると、物陰から1人の少女が現れた・・・俺は、その少女が3人目の変態であることを、その時はまだ知る由もなかった。
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