第2話 新たな人生の幕開け②
そう、俺の記憶が途切れたのは正月で、珍しく家族皆んなが揃っていたんだ・・・。
ママンが作ってくれたおせちを食べ終わり、姉者がリビングの大型テレビで『トキ学♡』をやり始めたんだ・・・グランパやグランマ、ダディだって居たと言うのに「正月の番組なんて、毎年どこも同じでしょ?」などとのたまい、大画面であの恥ずかしいオープニングを流しやがった・・・あの時の微妙な空気は、本当に居た堪れなかったのを思い出した。
俺の記憶が途切れたのは、オープニングが終わってタイトル画面に切り替わった直後だ・・・あの時に何があった?
確か、おせちだけじゃ食い足りなかった俺は、ソファーに座って磯辺焼きを食べていたんだ・・・姉者もそれをつまみ食いしてたな。
「あ・・・思い出した・・・」
俺は完全に記憶を取り戻した・・・いや、取り戻してしまった。
俺と姉者が磯辺焼きを食べていると、家に車が突っ込んで来たんだ!
だが、俺は突っ込んで来た車に轢かれた訳じゃない・・・驚いて餅を喉に詰まらせたんだよ!!
マヌケな死に方だよな・・・翌日の朝刊には『家に突っ込んで来た車に驚き、食べていた餅を喉に詰まらせた新田 人生さん(25)が死亡』とか掲載されたのかな・・・ダセエなおい!?
「どうかなさいましたか?お仕置きしますか?」
「しつこいなあんたも!お仕置きはしないの!!
俺は今、自分の情け無さに打ちひしがれてんだからほっといてくれよ!!」
俺が怒鳴ると、アリスは身悶えた・・・正直キモい。
「あぁっ!レオ様にお叱りを受けてしまいました!!わたくし身体が火照ってまいりましたわ!!」
俺の目の前で、ビクンビクンと身体を仰け反らせながら悶える美女・・・それが叱られて絶頂していると思うと怖くなってくる。
「はぁっ・・・はぁっ・・・ありがとうございました・・・。
そうでしたわ・・・レオ様、申し遅れましたが朝食のご用意が整っておりますので、お早めにお召し上がりください」
息を整えたアリスは賢者タイムに入ったのか、ハンカチで額の汗を拭って平然とした態度になった。
それを見た俺は、女にも賢者タイムってあったんだなと思ってしまった・・・。
俺は気を取り直して両手で頬を叩いてアリスを見る・・・アリスは物欲しそうな表情をしている。
こいつの前では叩くとかそう言った行動は控えよう・・・刺激したら負けだ。
「着替えるから、先に行っててくれ」
「かしこまりました」
俺は先に行くように伝えてクローゼットを開けると、アリスは深々と一礼して部屋を出て行った。
一応、アリスは自分が破壊した扉を壁に立てかけてから去って行ったようだ。
「あの扉は今日中に直るのか?」
壊れた扉の心配をしながらクローゼットを物色していると、綺麗に仕立てられた衣服が所狭しと並んで掛けられているのを見て驚いた。
俺はその中から制服らしき衣装を取り出して姿見の前で服を脱ぎ始める。
「ふむふむ・・・マッチョって程じゃないけど、意外と筋肉は付いてるな」
姿見の前でポージングをしてレオナルドの身体を観察する。
姉者曰く、レオナルドは資産家の息子で文武両道、教師や学友からの信頼の厚いキャラだ・・・俺とは真逆の人生送ってやがんなコンチクショウ!
見た目も良いから余計に腹が立ってくるんだよな・・・女性の様な緑の黒髪に、名前の通り日本人離れした堀の深い顔立ちとか卑怯じゃね?
そりゃあ人気も出るはずですわ・・・生前の俺なんかと比べたら月とスッポン、フリーザ様とウーロンてなもんですよ。
まぁ、今じゃこの身体は俺の物だけどな!ギニューになった気分だわ!!
「さて、着替えも済んだし飯食って学校に行ってみるか!場所分かんねーけどな・・・まぁ、同じ制服着た奴について行けば大丈夫だろ!
それにしても学校かぁ、可愛い女子いるかな?
この見た目で人気があるなら、あんな事やこんな事も・・・デュフフ!転生万歳!!」
俺は、邪な期待を胸に抱いて部屋を出る。
レオナルドの部屋は2階にあるらしく、下から食欲をそそる良い匂いが漂ってきた。
「お、おはようレオナルド・・・」
「あ、あら・・・随分とゆっくりだったわね・・・?」
俺が匂いの元を辿って食堂らしき部屋に入ると、そこではレオナルドに良く似た2人の美男美女が朝食を摂っていた。
だが、何かがおかしい・・・俺が現れた途端、部屋の空気が張り詰めたのだ。
俺は少し不安になったが、取り敢えず作り笑いを浮かべて2人に挨拶をする事にした。
「お・・・おはよう・・・ございます」
『!?』
俺が挨拶をすると、2人は凍り付いてしまった・・・ねぇ、その反応は酷くない?俺だって一応傷付くのよ?
だが、俺は勇気を振り絞ってもう一度挨拶を試みる・・・あちき、負けないんだから!!
「おはようございます・・・2人共どうかしましたか?」
2人は、改めて挨拶をした俺を見て涙ぐんだ・・・泣きたいのは俺だ馬鹿野郎。
すると、美女が美男の手を取って震える声で話しかけた。
「あ、あなた・・・レオナルドが・・・あのレオナルドが、わたくし達に対して挨拶をしてくれたわ!!」
「あ、あぁ・・・!こんな事は何年振りだろうか・・・!?」
んーっ?おかしいぞーっ・・・何なのかなその反応は?
感無量といった感じで泣きだした2人を見て、俺はねじ切れそうな程に首を捻った。
「旦那様・・・実を申しますと、レオ様は朝から様子がおかしいのです。
わたくしが粗相を働いても、罰をお与えにならない程度にはおかしいのでございます・・・わたくしのアイデンティティ喪失の危機でございます」
おかしいのはお前だ馬鹿野郎・・・。
俺は心の中でアリスに突っ込んだ・・・正直、出来ればこいつには心の中であっても突っ込んでいるとは言いたくないのだが仕方がない・・・。
こんな変態でも、雇われているからには優秀なのかもしれない・・・うん、きっとそうだ!!
「そんな・・・!食事を運ぶ以外には、レオナルドの憂さ晴らしの道具としてしか役に立っていなかったアリスが相手にすらされなかったら、何故生きているのか分からないではないですか!あなた、どうしましょう・・・!?」
おいおい奥さん、いくらアリスが変態だからってその言い方は・・・いや、あの変態めっちゃ頷いてるわ。
「むぅ・・・どうしたものか・・・。
何か変な物を食べたのか?それとも、奇病か何かが原因か・・・?」
旦那も旦那でレオナルドをどういった目で見てたんだ・・・いや、問題はレオナルドにあるのか?
俺は3人の会話を聞いてため息をついて部屋を見渡すと、ある事に気付いた。
用意されている食器が1人分多いのだ。
「あれ?俺以外にも誰か朝食を食べてない人がいるの?」
俺が尋ねると、アリスは天井・・・2階を見て苦笑した・・・何かあるのだろうか?
「あぁ、サーシャお嬢様がまだ済ませてらっしゃいません・・・先程からお呼びしているのですが、レオ様と一緒は怖いからと言って引きこもってしまわれました」
おい、レオナルド(俺)・・・お前、一体何をやらかした?
アリスは俺を見てため息をつき、首を振る。
「だから、わたくしは以前からご忠告申し上げていたのです・・・。
サーシャお嬢様はまだ5歳・・・花で例えるならば、まだ新芽の時期でございます。
愛でるならば、せめてあと5年・・・蕾になった頃合いが一番調教し甲斐があると何度も申し上げましたのに、レオ様は聞き入れてくださいませんでしたから・・・」
っべーわ・・・アリスもそうだが、レオナルドもかなりっべーわ!!5歳の幼女に何しでかしてんだこいつは!?
姉者・・・うぬの愛した男は、とんだド変態ですわ・・・。
「レオナルドは今日から長期休暇で家に居るのに、このままでは心配だわ・・・」
ん?何だって?長期休暇?
俺は、レオナルドの母の言葉を聞いて愕然とした・・・。
だって、学園での出会いは?キャッキャウフフな展開は?転生初日から計画頓挫とか酷くないですか?それに、制服着て来た俺って馬鹿みたいじゃん?
俺の話題からサーシャをどうするかに話を変えた3人をよそに、俺は1人涙を流した。
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