乙女ゲームの攻略対象に転生したけど、主人公とのフラグを打ち折って他のキャラを攻略します。

コロ

第1話 新たな人生の幕開け①

 「なん・・・だと!?」


 優しい日差しに照らされて目を覚ました俺は、ベッドから立ち上がり、鏡を見て驚愕した。

 鏡には、見知らぬ男が写っている・・・いや、俺はこの顔を知っている。

 歳の離れた姉(ガチオタ)が、奇声を発しながらプレイしていたゲームのキャラだ・・・。

 タイトルは何だっけかな?正式なタイトルは知らないが、確か『トキ学♡』とかなんとか言ってた気がする・・・トキが付くからには、トキメキか何かなのだろうが、鏡に写ったイケメンなんか見ても、トキメキどころか嫉妬しか沸かないでゴザル。

 だが、ちょっと待って欲しい・・・冷静に考えて、鏡に写ってるって事はイケメン=俺だ。

 

 「はっはっは!これはどうせ夢なんだろう!?

 目が覚めたら、25年間見続けて来た陰キャの顔に戻ってるんだろう!僕はものすごく詳しいんだ!!」


 俺は鏡に写るイケメンの頬をつねったり、指で豚の鼻のようにしたりと色々と試す。

 あれ?最近の夢って感覚があるんだー・・・スゴイナーオドロキダナー・・・。


 「まだあわあわあわ慌てるようなじじじじっ時間たいじゃあない!!」


 俺は滝のような汗を流しながら、振り返って部屋を見渡した。

 何もかもが自分の部屋と違っていた・・・グラビアのポスターも、モテるかと思って買ったは良いが結局使わなかったギターも、オ◯ティッシュが一杯でダークマターを産み出しそうな異臭を放つゴミ箱も無い。


 「な・・・何じゃこりゃあああああ!!?」


 俺は取り乱して叫んだ・・・皆んなに解るかな俺のこの気持ち?

 感覚がある時点でね、薄々勘付いてはいたんですよ?0.01mmのオカ◯ト製コンドーさん位には薄々とね!!でもね、信じられる訳ないじゃん?


 「何事で御座いますか坊っちゃまぁぁぁぁ!?」


 俺がホセ・メンドーサ戦後の矢吹ジョーのように真っ白になっていると、部屋の扉が吹き飛び、何者かが転がり込んで来た。

 俺は身構えて珍入者を見る・・・めっちゃ美人♡

 珍入者の正体は、淡い栗色の髪をアップにし、メイド服を着た眼鏡の美女だった。

 その美女は、俺の肩を掴んで勢い良く揺さぶった。


 「お怪我は・・・お怪我は御座いませんか坊っちゃまぁぁぁぁん!?」


 朝っぱらからめちゃくちゃテンション高いなこの人・・・。


 「ちょい待ち!今怪我しそう・・・てか、死にそうなんですけど!?」


 「はっ・・・!?も、申し訳御座いません!!」


 眼鏡の美女は慌てて俺の肩を放すと、涙ぐみながら俺を見つめている。


 「わたくしとした事が、敬愛すべき坊っちゃまに対し何たる無礼を・・・坊っちゃま、卑しいアリスにどうか厳しい罰を与えてくださいまし!!」


 アリスと名乗った美女は、メイド服の裾を持ち上げて艶っぽい声で懇願してきた。

 うーわ・・・正直引くわー・・・押しが強いのより、慎ましい女性らしさが欲しいのよねー。

 俺は内心ドン引きしていたが、咳払いをしてアリスを見た。


 アリスは期待の眼差しで俺を見ている!


 躾ける

 無視する←


 俺は無視を決め込み、もう一度咳払いをした。


 「大丈夫だよアリスさん・・・君は俺のことを心配してくれたんだろう?」


 俺が優しく話し掛けるとアリスはあからさまに残念そうな表情になり、舌打ちをした・・・。

 どこから取り出したのか、アリスの手には特殊な形の鞭が握られている。

 九つに分かれた革紐に、玉結びにした麻縄が結び付けられている・・・九尾の猫と言うやつだ。


 「なりません坊っちゃま!卑しいわたくしめに相応の罰を!!さぁ!こちらで思い切り!!」


 鞭を受け取る

 逃げる←


 しかし、まわりこまれてしまった!


 俺が仕方無く鞭を受け取ると、アリスは嬉しそうな笑顔になった・・・この女性は、救いようの無い真性のマゾのようだ。

 だが、俺は叩かない!だってね、人殺しにはなりたくないですもん・・・。

 

 「あのねアリスさん、貴女が持っていたこれは殺傷用の鞭です・・・これで何度も人を叩いたら、下手すれば死にますよ?

 もしかして、敬愛すべき俺を人殺しにしたいの君?」


 「そ、そんな・・・滅相も御座いません!!

 卑しいわたくしにご褒美・・・失礼しました、罰を与えていただきたかったのです!」


 うん、知ってた!全く隠す気無いねあんた!


 「罰を与えるような事じゃないから気にしなくて良いよ!

 それより、坊っちゃまはやめてくれないかな?恥ずかしいんだよ・・・」


 お預けを食らったアリスは残念そうだが、敢えてスルーだ!

 そんな事より、俺は今の自分の名前を知りたいんだ!ゲーム画面をチラ見してただけだから詳しく知らんのよね・・・。


 「わたくし如き下賤の者が坊っちゃまの名を呼ぶなど万死に値します!!

 はっ・・・!もしやそれがご褒美!?」


 ちょっと何言ってるかわかんないです。

 皆んな、変態の相手って疲れるんだね・・・。


 「いや、そこまでせんでも・・・アリスさんは自殺願望でもあるの?

 俺は気にしないから、頼むから名前で呼んでよ」


 「ですが・・・」


 「おいおまえ!おれの名をいってみろ!!」


 俺は、いつの間にか北◯四兄弟からハブられた三男の名言で命令した。

 するとアリスは歓喜の表情で手を胸の前で組み、俺を見つめた・・・命令されたのが嬉しかったようだ。


 「貴方様は、レオナルド・オニキス様であらせられます!!」


 レオナルド・オ◯ンポ?・・・いや、オニキスか。

 あーあー確かそんな名前でしたね!愚姉が『レオ様!抱いて!!』とか言って母さんにドン引きされてたわ・・・。

 見たか姉者!貴様が愛した男は、今やこの弟者の手の内にあるぞ!!・・・それにしても、姉者は元気にしてるだろうか?

 確か、最後に見た姉者も『トキ学♡』やってたよなぁ・・・ん?そう言えば、あの時何か起きたような・・・何か大切な事を忘れている気がする。

 俺は目の前で身体をくねらせている変態に姉の面影を重ねながら、思考を巡らせた。


 「坊っちゃま、どうかなさいましたか?お仕置きですか?」


 「坊っちゃまやめろ・・・レオナルドで良いよ。

 それと、お仕置きは無しです」


 「左様でございますか・・・では、呼びにくいのでレオ様とお呼びいたします」


 アリスはやはり残念そうに俯くと、何とか呼び方を改めてくれた。

 それにしても呼びにくいって・・・本人を目の前にして言うかね?

 別に良いんだけど、敬愛してるとかってのも本当は馬鹿にしてるんじゃなかろうか?


 「レオ様・・・あぁ、何て甘美な響きでしょう」


 あーぁ・・・またトリップし始めたよこの人。

 レオナルドってのも、よくこんな強烈なのと一緒に暮らしてたな・・・いやいや、今はそんな事より俺の事だ!

 あの日は確か正月で、家族全員揃っていたんだよな・・・。

 俺は、変態そっちのけで再度思案し始め、朧げにではあるが少しずつ最後の記憶を思い出していった。

 


 




 



 

 

 


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