第42話 傭兵戦1 ※キャラコラボ


 初めて姿を見た瞬間、彼に似ているな、と思った。


 外見のせいかもしれない。腰に挿した剣のせいかもしれない。第一線に置いているはずの騎士よりも強いからかも知れない。


 ただ単純にかっこよかった。


 普段は窓から外を覗くだけの傭兵と騎士たちによる試合。国に滞在する傭兵たちを管理するためだと上の人間は言うが、自分にとっては暇な催しに違いなかった。何年経っても自分はおろか、自分の夫に届く者は居らず――居たら居たでそれは要注意人物に違いないのだが――気紛れに一度参加したら参加を禁じられた。


 ああ、コレほど参加したい試合があるだろうか。


 これからだってそんな試合はない。窓に手をついて外を眺める。


 小賢しく動き回る敵には圧倒的な力を持った一撃で。力を持った敵には知と策略を持って。


 がん。と、窓の内側にまで響く音に自分の鼓動すら高まっていくのを感じる。今すぐこの窓を開けて外に出て参加したい。自分の視線を感じてか、場の監督をしていた赤い髪の夫が振り返った。


 窓にくっついているような自分の姿を見てか一瞬驚いたような表情をし、溜息をつくように一瞬下を向いた。顔を上げた彼は諦めたように笑い、手招きした。


 監督の許可が下りたならば。


 最速動作で窓を開けて夫の隣に駆け並んだ。


「窓から来いといったつもりはなかったな」


「終わっちゃったら嫌だもの!」


 目の前の試合が最後なのだから。


 騎士よりは弱く、傭兵の中では強い。試合中はそんな扱いを受けていた黒い姿。振りかぶられた剣を横なぎに払い、彼の長く黒い髪が少しだけふわりと浮いた。ああ、似ていると思ったのはこういうところかもしれない。


 横を見ると不満そうに、不安そうに顔をゆがめた夫の姿。


 騎士より強い傭兵にいてもらうのは困る。といったところだろう。


 傭兵である彼、クロナさんには目的があり目的を達成したら別の場所に移動する。そう言っていたのは――あろうことか――自宅で聞いたことがある。


「騎士に欲しい」


 は。と間抜けな声が隣から聞こえてくる。


 だが、思い立つとどうにも自分の体を抑えられない。


「おい待て今は――!!」


 夫の言いたいことはわかる。わかっている。だから腰の剣は確認した。


 背後から駆けてくる自分の足音と、わざとらしく向けた敵意。


 黒の姿は想像通りそれだけの情報でおそらく無意識に剣を振り切った。自分の姿を目に入れ、驚こうとも横なぎに振られた剣は止まらない。


 がん。


 窓の外から聞こえていた声と刺激を間近に感じ、思わず目を細めた。


 本気でやりあえばきっと後ろの夫は許しはしないだろう。


 弾かれた剣を一瞬見やり、自分に視線を移したクロナさんはひどく困惑していた。弾かれたことにか乱入してきた自分の姿にかわからないが、不意の出来事への対応も申し分ない。


「ねえクロナさん」


「……乱入してくるのは、どうかと思うが」


「そんなことはどうでもいいの」


 どうでもいいのか。クロナさんがチラと視線を向けたのは自分の背後にいる夫へと向けられている。この場にあの男も関係ない。


「騎士に、良ければ私の隊に入らない?」


「断る」


 えー。と子供のように言葉を返した自分から視線を背けクロナさんは何か近くのモノを見た。


「総長だからと、全てが許されると、思うな!」


 ゴン、と明らかに人の体とは違う硬いものが頭に落ち思わず声をあげて両手で頭を庇った。


「いたーい!」


「痛くなかったら化け物だと思うところだ」


 涙で潤んだ視界に鞘から抜いていない剣が見える。あれで殴られたのか、やり返してやろうかと思ったところで夫がクロナさんに向き直り謝っていた。


 何を謝っているのか。


 だがこうして二人が並ぶだけでも。楽しい。


「クロナさん、戦い方もかっこいいし私好きよ、強い人」


 だから騎士に入ってほしいのに。


 そう畳み掛けるもクロナさんは首を縦には振らず、断ると言い続ける。


 だがこう言えば焚きつけられるのはクロナさんではない。


「ねえ。クロナさんと龍騎。どっちが強いかやってみない?」


「断る」


 聞こえた声は一つだけ。


 クロナさんの責めるような視線から逃れるように、夫は少し空を見上げていた。


「俺は、良いぞ」


 聞こえた言葉に笑みを返した。


 かっこいいなら、かっこいい人同士戦っているのを見るのも。


 とても楽しい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る