第43話 傭兵戦2 ※キャラコラボ
ごん。
金属とは違う鈍くも柔らかい音が響き、想像以上にうずうずしていた。目の前では自分の夫と黒い姿の男クロナさんと、自分の夫の龍騎が木剣で打ち合っている。最初はお互い様子見だったのか型通りの打ち合いをしていたが、途中で様相を変える。先に仕掛けたのは意外にも龍騎だった。
行くぞ、と一声かけ型どおりの形から木剣を構えなおす。
声をかけられ身構えたクロナさんもまたわずかに表情を変える。
良いなあ。思わず声に出してしまう。
二人とも完全に本気ではないだろうが、ある程度本気でそれに合わせて相手も本気になってくる。命のやり取りとはまた違う。じりじりと高まる緊張感と危険。久しくあんなものは感じていない。経験していない。
外でのやり取りは皆、最初から全力でなければこちらがやられるモノ。
羨ましい。その強さが、その姿が。
木剣のぶつかり二人の長い髪が風に揺れる。同じだけの力量で、同じだけの力強さで。一閃を避けられれば相手の反撃に備え、一閃を避ければ相手の隙に木剣を差し入れる。
同じような戦い方をする二人はまるで踊っているようにも見える。その姿が羨ましくて、同時に混ざったらもっとキレイに見えるのだろうかという期待。あの二人がもしも組むことがあったら、という希望。
自分の片手は腰元の剣に置かれている。だがこれは抜けない。先ほど怒られたばかりだ。鍛練で真剣を抜くなと。だが、だが。
強い人が居る。目の前に、二人も。
戦いたい。勝ちたい。
――勝たなければ。
わずかに残った自分の冷静な意識が鍛練用に用意された木剣の一本を手に取った。地面に向かって振り下ろせば男性用に作られた木剣はわずかに地面を削り、その振動が自分の手に伝わってくる。切れ味の悪い剣でナニカを切ったようだ。たとえ木剣でも、きっと柔らかいものならば切れるだろう。
軽く地面を蹴るだけで木剣のぶつかり合う音が近くなる。
「隊長!!」
不意に背後から先ほどクロナさんに負けた騎士の声が聞こえた。
呼ばれたのは私ではなく、目の前で戦う赤髪の。
声に反応した『彼』は一瞬こちらを見、その瞬間に黒の人が木剣を振り下ろした。みし、と音がした。振り下ろされた木剣に従うように彼の服は一部が避けわずかに赤色が見えた。髪の色と、違う赤色。
彼と黒の男の表情が歪んだ。
その中に木剣を振り下ろす。
彼は木剣を両手に持ち替え私の木剣を受ける。
「ああもう、こうなるのが嫌なんだ。いい加減にしろ、遥っ!!」
悪態をつかれ、名を呼ばれ、強く弾かれた。
ああ、強い人。
木剣を構えなおして向き直る。本気だったならばその相手をしていた――黒い人も。
少し考え『龍騎』を見た。
「本気でやってもいーい?」
「だーめ、に決まってるだろ! はい回収」
一瞬で緊張感が解け、手に持った木剣は龍騎に回収される。
「ったくもう、今日のはもう終わりだ。帰っていいぞー。クロナさんも、付き合わせて申し訳ない」
ひらひらと龍騎が手を振れば観戦に回っていた傭兵や、騎士たちが帰っていく。何人かを残して。
「隊長、大丈夫ですか?」
「痛い」
「いえ、服が――いたい!」
龍騎に声をかけた部下は応急処置道具を持って龍騎に駆け寄り木剣の柄で殴られ、クロナさんも近くに行く。そういえば怪我をしていたのか、その場で簡単に処置を始めたところを覗き込むと非常に不服そうな視線を向けられる。
いやでも。とっても強そうだったもの、二人とも。
そう言い訳をするも通じない。
咎めるような視線に
「ごめんなさい……」
思わず謝った。
「……良いよ、今回ばっかりは俺も賛同しちゃったから」
ほら、貴方もやりたかったんじゃない。
と、言いかけた言葉を飲み込んだ。これ以上の言葉は良くない。
「なにか手伝う?」
「悪化するからやめろ。部屋に放置してきた仕事をしてくれ」
簡単な処置くらいできるのに。
部屋に戻ろうと思い、その場にいたクロナさんを見た。龍騎の治療を見ていた彼は自分の視線に気づくと何か用かといわんばかりに首を傾げる。
一瞬龍騎は気をそらした。けれどそれはただ一瞬。先ほどまでここに集まっていた傭兵たちであればたとえ一瞬大きく隙を作ったとしても龍騎に傷を付けるなんて出来ない。自分も参加して真剣に仕合いたいなど思わない。
やはりこの人と龍騎が共に在れば。
「ねえクロナさん、やっぱり――」
「遥、部屋に、戻れ」
ひどく真剣で低い声。言葉は途中でそんな声に遮られ、非常に惜しいが私はその場を後にして自分の部屋に向かった。
クロナさんが居たら。
きっと。
どうしても諦めきれなかった。
<以下龍騎視点>
すまない。
聞こえた声に首を振って応えた。さっきも言ったがこれはあいつの意見に賛同してしまった自分のせいでもある。戦えと言われて戦ったクロナさんに非はないだろう?
顔をあげると怪訝な表情と目が合ってしまい思わず笑った。
「なぜあそこまで執着する」
聞かれているのはきっと背中を丸くして帰って行った上司のことだろう。強い人が、かっこいい人が好きなのは性分だが。
「さあ? 負けたくないだけだろうよ。俺にも、クロナさんにも」
わけがわからない。と言わんばかりに怪訝な表情のまま。
確かに、帰って行った遥が勧誘したいと言ったのもわからないではない。これだけ強く、状況を見れる人はそういない。俺の部下は――妻基準だが――強くないにしろ、食いぶちを稼ぐだけの傭兵には負けない。
目的というものが無かったならば俺でも声をかけたかもしれない。
「あれだけ強くて心配なのか」
部屋に戻った彼女はきっと戦いたくもない紙と戦っているのだろう。後で助けてやってもいいが、まずは傷の処置と着替えか。
「二度と負けられない。俺も、アイツも」
二度と?
問いかけられ笑って返した。
「護る側が負けては意味ないだろ? そのための力が数多く欲しいだけ。コイツみたいに弱くては使えないから」
顎で部下を指すと消毒液に浸された布が強く当てられて思わず痛みで声が出た。事実だろうが。
「想定外だったけど俺にとっても良い鍛練になったよ。ありがとう」
それ以上の言葉を聞きたくなくて礼の言葉で終わらせるとクロナさんは何かを言いたげに一瞬、足を止めていたが視線をそらすと背を向けて外へ向けて歩き出した。
黒。
だからこそなのだろう。二度と負けられないと強く思う。
「お前はこの後俺と続きの訓練だからな」
「えっ。隊長とやりあう人相手に俺頑張りませんでしたか!?」
「負けたら一緒。俺は手負いなんだから負けはしないだろ?」
処置が終わったとはいえふさがっていない傷は痛み、腕や足を動かすだけで動きが鈍る。
まあ手負いでも同じ。
負けられない。
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