第28話 届かない朝

 

 夢を見ていた。少し上り坂になった真っ直ぐな一本道。坂道の頂上には異様に大きな太陽が歪んで見える。その真中には細く伸びた黒い影。


 ああ、アレは遥だな。


 確認していないのに確信があった。遥。名を呼べば影は少し揺らいで止まった。こちらを見ているのか、それとも前を見ているのか。


 とにかく止まっているうちに遥の隣へ並ぼうと足を一歩踏み出した。けれど、何故か足が動かなかった。いつもなら難なく前へ進む足が動かなかった。動かし方を忘れたわけでも無い。


 ただ、地面と繋ぎ止められたように足が動かない。


 思い切り足を引っ張ったが、両足共に地面から動くことはなく先走った体が道に落ちた。砂地に両手をついてから慌てて顔を上げた。置いて行かれてしまう、とどこかで思ったから。


 大きすぎる太陽に照らされていた黒い影はもう見えなかった。


 また、置いて行かれた。


 ため息も出なかった。こうなることは分かりきっていたし想像だってしていた。これが誰のためになるかなんて事も理解している。


 ゆっくりと立ち上がって膝と手のひらについた砂を払った。


 先ほどまで大きすぎると思っていた太陽は丘の向こう側へ落ちて空は黒くなった。丘の上も黒く、影もない。目を細めても景色は変わらない。


 唾液を飲み込み息を止めた。


 居るべき場所に戻ろうと足を自分の背後に向けた。平坦な真っ直ぐの道が続いた先には異様なほどに大きな丸い月。月の淡い光に照らされて一本の影が俺の足の下に伸びた。


 さあ帰ろう。


 差し出された俺より小さな手に、俺は自分の手を乗せた。帰ろうか。強く握られ、強く引かれた手に着いて一歩を踏み出した。



 瞬間、世界が回った。ぐるりと一回転。ベッドから落とされた。


 腰が妙な痛みを訴えていることからまたベッドから蹴り落とされたのがわかる。原因は誰かなど今更言及する必要もないだろう。


 遥、どこいったふざけんな。



 今朝も彼らの家には大きな目覚ましが鳴った。

 

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