第29話 こんにちは ※キャラコラボ

 

 街の中にある大きな公園。人工的に植えられた木々に囲まれた芝生はなだらかな坂になっていて、休日の昼であればペットの散歩をする多くの人で賑わっている。


 けれど平日の夕方に人がいるのを見たのは久しぶりだ。


 琉斗は目が慣れない黄昏時の景色の中に黒い影を見た。


 公園の中でも一番大きな木の根元に座っているその人はとうに成人をしたような大人の男の人。じっと見ていて気付いた。その人は自分が公園にいることに気付いていて、ずっとコチラを見ている。


 琉斗は少しだけゾッとした。


 黄昏時の公園に人が居ることが既に見慣れない光景だというのに、じっと自分を見つめる人影があるのは正直恐ろしい。


 何を気にしているのか分からない。この平和な場所であの男の人は何を気にしているのだろう。


 琉斗も家へと向かう足を止めてジッと座った人を見ていた。


「もうすぐ暗くなる」


 近くに居るわけではないのに周りが静かな為に男の人の声がよく聞こえた。人影がゆっくりと立ち上がる。


 どうしてか、恐怖よりも興味が勝ってしまう。


「子供は家に帰る時間だろう?」


 似ている、と感じてしまうのは何故だろうか。恐ろしげに見えて心配をしてくれているからか。


 男の人が近づいてきて、ようやく黒い髪に黒いマントを羽織っていることがわかる。風に揺れて背中で一つに結んだ髪が揺れる。似ているのは髪型かもしれない。


 琉斗は初めて初対面の人に対して笑いかけた。


「こんばんは。ご心配いただきありがとうございます。でも大丈夫です。お兄さんみたいに優しい方が居てくださるから。それに、この時間は警兵さんの警備強化時間ですから。大きな道を通るなら問題はないです」


 男の人の足が止まる。驚いているのだろうか。


 けれど現にこの公園の外に警兵の姿がある。よほど気配を感じさせない人か、日の高い時間から公園に居るのでなければ警兵の姿は見ているはず。


 琉斗が知る限りこの公園は特に自分を含む子供がよく通る道。


 時間にもよるが制服の警兵が見える場所。


 一定の距離をおいて立ち止まった彼は何の表情も浮かべていないように見える。似ていると思ったのは気のせいだろうか。


「なんにしろ」


 低く通る声はどこか静かで、無関心にすら思える。


「早く帰るといい。もう日が沈む」


 近寄って分かったのは男の人が腰に武器を下げていること。けれどこの国で武器を下げて行動できるのは武器を持つことを仕事としている騎士。有事の際の警兵たち。そして、傭兵と呼ばれる人たち。


 珍しいな。琉斗は男を見やった。


「うん、ありがとう傭兵さん。傭兵さんも気をつけてね」


 きっと、男の人はまた驚く。


 自分でも何故こんなことを話したのか分からない。


 琉斗は男に背を向けた。何も心配する必要は無い。公園から出ればすぐに紺色の制服が近づいてくる。


 武器を持たない制服の人たちは、警兵。


「あっれ、琉斗くん。こんばんは、学校帰りかな?」


 紫の髪を上げて一つにまとめる彼女は警兵の中でも腕が良いと評判の、女性。


「こんばんは、すみれさん。家に帰るところです」


「うん、早く帰りな。最近危ない人が居るみたいでね、いつも以上に警戒態勢なんだ。君の妹みたいな子にも重々言っておいてね」


「はい、お疲れ様です」


 ひらひらと片手を振ったすみれが公園の中へと入っていく。暗くなっていく公園の中に目を向けると小さな背中のすみれだけが目に入る。


 武器を持った人影は、どこにもない。


 やっぱりどこか似ている。


 改めて、琉斗は家に向かって歩いた。


 今日は父親の帰りが早そうだ。一緒に夕食を作れるだろうか。

 

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