第4話 お墓参り
死んだ人は身体のみを残して消える。墓に眠ることも、宿ることも、まして幽霊になるなんてこともない。
時折死者蘇生などと言って死者の身体を動かしている者も居るが、アレは単に身体を動かしているだけで意志はない。
「って言う割に墓参りは欠かさないわね」
「……ただの自己満足だよ。こいつらが死んだのも元々は俺のせいだしな」
騎士隊舎近くに備え付けられた共同墓地でひとりの男が砂利に膝を付き墓前に手を合わせている。男の背後では女性が馬鹿にするように鼻を鳴らして笑う。
手を合わせ、目を閉じる男にも嘲笑は届く。
それでも彼は一切意に介さず墓石に向かい続ける。
「第一部隊の人間が死ぬのはその人たちの力不足が原因でしょ」
第一部隊の人間は敵陣に特攻することが分かっているのだから特攻専用の訓練をするのが当たり前。死んでしまうのはただの訓練不足。女性は不満そうに眉を寄せる。
隊の誰かが死ぬたびにこうして男が墓を参る姿は、見ていて気に食わなかった。
誰かを想う事も、誰かの為にこうして時間を使うことも。
「隊長の指示と、普段の訓練。どちらもこいつらが死んだ理由には違いない。実際、遺族から色々不満も飛んでくる。全てが全て俺の責じゃないのは分かってるさ」
手を離し、瞳を開けて墓を見やる。
背後で女性がどんな顔をしているのかは知っていた。
「変なとこで妬くなよ、遥。もう居ないやつ相手に妬いてどうすんだ」
膝についた砂利を払い、立ち上がる。
とん、と背中に何かの温かみが重なる。
「居ないからじゃない。もし龍騎がそいつに惹かれてたら私は頑張って勝たなきゃいけないでしょ?」
居ない人間の残した情に勝つなんて面倒なこと、したくないの。だからこそ彼がこうして長く墓参りをしているのは見ていてもどかしい。
龍騎と呼んだ男の背中に体重を預け、彼女は空を見上げる。
空に魂があるなら竜に乗ってトドメを刺しに行けるのに。
伸ばした手は何も掴めない。
「そこは頑張れよ。……でもな」
体重を預けられた龍騎は笑う。
「お前に勝てる人間がいるとは思えない」
空から下ろされた女性、遥の手を取り足の横へと下ろす。
背中の温かみは龍騎の右手と遥の左手へ集まる。
「私が一番?」
「そうだよ。遥が一番。寒くなってきたし、帰ろうか。夕飯作らないとな」
「今日肉でしょ! 朝冷蔵庫にあった!」
緩く引かれた手を強く握り返し、遥は子供のような目で龍騎を見上げる。
「ああ、帰ったら作るから」
「早く帰ろ、お腹減ってきた!」
「いて、引っ張んなよ」
帰路を急ぐ彼女は墓参りをしていたことなど忘れる。
満面の笑みを浮かべて自分の手を引いて歩く遥を背後から追いかけ、龍騎も笑う。
地に向かって下ろした手は、暖かい彼の手を掴んでいた。
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