完璧なハーレムよりおっさんがいるぐらいがちょうどいい

 結論から言うと、落ちても死ななかった。

 現地の人の話では、俺は光に包まれて、ふわーって感じで降りてきてたらしい。

 うーん、いかにも俺様降臨! って感じだったみたいだ。


 ……実は気絶してたとか、絶対に言わないでおこう。ハズいし。


「お待ちしておりました、勇者殿。神託を受けてより、この日をお待ち申し上げておりました」


 偉い人のイスは高いところに作るのが常識なんだろうか。

 出迎えてくれた王様は、座っていた場所からわざわざ降りてきてくれて、俺の前に膝を突いた。

 こういうことがあるなら、もっと低いところにすればいいのに。


「えっと、そ……その、く、クルシュウナイ、でいいんだっけ? うん」

「ご高配、痛み入りましてございます」

「えっと、その俺、やっぱむずかしい言葉わかんないから、軽い感じでおねがいします」


 なんだろう、ファンタジーってみんな、めんどくさい喋りなのかな。

 アニメとかならもっとこう、みんなフランクで楽っぽいんだけど。


「そういえば、魔王ってどこにいるんですか? ここから遠いとか?」

「……かの忌まわしき者は、天の高みにありし、石の城に住んでおります」

「天空の城かー。なんかこう、呪文一つで壊れそうな感じだなぁ」

「なんと! 勇者様はそのようなお力が!」

「いやいやいや! そうじゃなくて、別にいきなりそこまでのパワーはないっすよ!」


 おお、あぶねー。うっかり冗談も言えないぞ。

 こっちにはアニメとかないだろうし、いちいち説明するのも面倒だから、このネタは封印しとこう。


 なんやかんやで王様は、俺をマジもんの勇者としてもてなしてくれた。

 いや、確かにマジもんではあるんだけど、いまいち実感がないんだよな。


『やれやれ、なんと無様な謁見だ。こちらで下稽古でも付けさせればよかったわ』


 宴会の準備が済むまで、俺は専用の部屋で休むように言われた。

 ちょうどその時、聞き覚えのある声が、文句を付けてきた。


「えっと、カミサマ、か。いや、だってしょうがねーじゃん。俺、勇者なんて初めてなわけだし」

『馬鹿者。ああいうときは言葉少なにうなづいて、知らぬことには「それで?」とでも言って、相手に語らせればいいのだ』

「おおお~、いかにもカミサマっぽいゴーマンな態度」

『傲慢なのではない、偉大ゆえに下々を従わせているだけなのだ』


 偉大でもゴーマンでも、似たようなもんだと思うけどな。

 それよりも、俺は気になったことを質問した。


「そういや魔王って天空の城にいるんだってさ。この鎧、空とか飛べんの?」

『そこは心配には及ばん。貴様、いわゆるRPGというものを知っているか』

「ゲーム機のヤツ? それとPCのMMOとか?」

『ええい、そんな区別はどうでもいい。今、貴様がいるような世界の冒険のやつだ』


 自慢じゃないけど、俺は大抵のゲームは一通りやってる。

 携帯機から据え置き機、パソコンのやつまで、RPGと名のつくものは大抵手を出していた。


「あるけど、それが何?」

『要するにだ、貴様は敵を倒せば倒すほどに、レベルアップするのだ』

「あー、そういうアレなんだ。それってパラメータ上がるやつ? それともスキルセットが取れるやつ?」

『そのスキル、というやつだな。実は貴様の身につけている神器も、俺がポイントを買って作らせたものなのだ』


 アイテムクリエイトもできるスキル制かぁ。

 というより、スキルをアイテムに設定できる感じなんだな。レベルアップでパラメータがあがるタイプよりも、ランダム性がないから好きなヤツだ。


「じゃあ、これからどんどん敵倒して、クエストクリアすれば、空飛ぶ鎧になったりできんのかぁ」

『ちなみに、その他の神器にも新しい効果を付け足すことができる。鎧の防御も、あらゆる攻撃を防ぐ効能を付けられるぞ』

「ああ、攻撃だけじゃなくて、魔法とか呪いとか、状態変化をはじくやつね」


 だんだん分かってきた。

 俺の能力はかなりチートっぽいけど、まだ完璧じゃないってことなんだ。


「勇者様、宴の支度が整いました。ご案内いたしますので、お出で願えますか」

「はーい! んじゃカミサマ、また後でな」

『言うまいと思っていたが、貴様のその不敬な喋りはなんとかならんのか……』



          * * * * * * * * *



 宴の席には、結構な人が集まっていた。

 長いテーブルには着飾った人が並んで立っていて、一番奥のところに席が二つ。

 片方は王様ので、もう片方は俺の。


 テーブルの上にはごちそう、っぽいものが並んでいる。

 ぽい、って思ったのは、色味がすげー地味だったから。

 果物の赤いのとか黄色いの、申し訳程度に盛られた葉野菜っぽいなにか。

 あとはひたすら肉! 肉! 肉だった!

 鶏とか、牛っぽいのとか、豚の丸焼きとか、そんな感じで。全部が、ろうそくの明かりを受けてギトギトぎらぎらしていた。


「いや、確かに俺、肉も嫌いじゃないけどさ……」


 どっちかって言うとラーメンの方がいいんだよな。

 前に家族で焼肉行ったとき、焼きが甘いカルビ食って腹壊してから、ちょっと苦手。


「それでは勇者様、できれば何か、お言葉をいただけますでしょうか」

「え……それってあの、乾杯のオンドとかってやつ?」

「ここにおります者、みな勇者様のお声を、拝聴いたしたく思っておりますので」


 これってむしろ、校長先生とかが喋ったりするアレなの?

 んなこといわれても、いきなり思いつくわけねーじゃん!

 助けてカミサマー!


『愚か者めが、では、俺が言ったとおりの文言を復唱せよ』

「あ……ありがとうっ! よろしくお願いしますっ!」


 そんなわけで、なんとか俺は、みんなの前で恥をかかずにすんだ。

 っていうか、俺の借り物の演説に、みんな感極まって泣き出したりして、さすがにちょっと引いた。

 ごめんなー、みんな。

 俺、超頭悪いから、自分がなに言ってんのか、自分でも分からないんだー。


「ところで、勇者殿。この場を借りまして、お目に掛けたい者がございます」

「んーふ? だへふか?」

 

 王様の言葉に、俺は腿肉を加えたまま答えた。

 行儀悪いとは思ったけど、この肉えらく硬いんだよな。 


「旅の供回りにと、選抜しておいた者がおります。お気に召しましたら、どうか同道をお許しいただけませんでしょうか」

「あー、いいっすよ。なんか、カミサマからも聞いてたし」

「おお! では、皆のものをこれへ」


 やってきたのは三人。

 前の二人は、女の人だった。

 片っ方は俺よりも年上で、いかにも『姐さん』て感じ。ちょっと目が鋭くて、身につけている服装も、シーフとかレンジャーって感じのやつだ。

 その隣にいるのは……カワイイ感じの子。

 たぶん、俺とそんなに歳は違わないんじゃないかな。外人の年齢って、見分けられないけど。

 そして、後ろには背のでかいおっさんが一人。普通の服を着ているだけだけど、たぶん戦士か騎士っぽい。



「では、リィル。そなたから挨拶を」

「はい」


 かわいい方の女の子が進み出て、きれいなお辞儀をする。

 そういえばこの子だけ、他の貴族と同じように着飾っていた。長いスカートと、刺繍のきれいな上着、きれいな飾りのついた薄い布をかけている。


「リィル・サイファスと申します。この度は、偉大なる英傑の御前に拝謁を賜り」

「あー、ごめん。いいよ、そういうの。大丈夫だから。あと、一緒の仲間になるんだし、硬い喋りはしなくていいから」

「……はい、では勇者様のお心のままに」


 だから硬くならなくていいんだって。

 かわいいんだけど、この辺りはそのうち何とかしてもらおう。


「んじゃ、次はあたしだね。エルカ・モーレッド、流しの傭兵だ。礼儀を気にしないでいいのは助かる。これからよろしくな」

「うん。ありがと。俺もそういうほうが気楽でいいし、よろしくな」


 おおー、姐さんのほうは本当に姐さんだった。

 好感度的にはこっちが一歩リードだなぁ。


「お初にお目にかかります。私はアクスル・ラヴァ、このリミリスにて騎士を勤めたる者でございます。生来の頑固者にして不調法ゆえ、礼を失することができませぬ。平にご容赦を」

「あー、うん。個性なら仕方ないです。よろしく」


 まあ、騎士なんて頑固がデフォみたいなもんだし、おっさんだし。


「それで、出発はいつにする?」

「いつでもいいけど、早いほうがいいから明日とか」

「いい返事だ。即断即決は、いい頭目の資質ってね」


 王様とリィルたちがちょっと困った顔をしたけど、無視させてもらう。

 だって、これから勇者として冒険するんだぜ。

 早く外の世界がどんなだか、見てみたいじゃん。


 宴が終わった後、俺はなかなか寝付けなかった。

 明日からが楽しみだ。

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