第十一話 世界の成り立ち。
狂精病の治療を無事終え一段落したリリアとラリクスら、4人はセノルの淹れた茶を楽しんでいた。
「さてと、治療も終えた事だし…。海精契約について教えてあげよう」
リリアの言葉にラリクスは身を乗り出し食い付く。
「ほ、本当ですか!?」
「ああ。本当だとも。だけどその前にまず世界の成り立ちについて知らないとね。―突然だが、ラリクス。
突然質問をされたラリクスは慌てながらも懸命に考える。
「えっと。…ありとあらゆるの現象の源、ですかね。生命無生命問わず全ての物体に宿る。…物が落ちるとか、木が燃えるとか、そういうのを司る」
「まあ、概ね合ってる。ほぼ正解さ。森羅万象を司る万能の力。正式名称、
ラリクスは真剣にリリアの話を聞いていた。まだ知らぬ未知に心が湧き踊っているのだ。
「ラリクスは島や大陸の底を見たことあるかい?もしくは知ってるかい?」
ラリクスはその問に、頭を縦に振る。一度、貝を採る為に素潜りで沖に出たことがあるのだ。
「浮いています。船みたいに」
ラリクスの答えが、少し意外だったのか、一瞬だけ目を見開くも、リリアは続ける。
「そう。島や大陸はね、浮かんでいるんさ。あんたは船乗りを目指すならその内見れるだろうけどね。全ての島や大陸は海の底から、水に沈めた浮きみたいに浮いて出てくるんだよ。あたしは何度か見たことがあるけど何度も見ても慣れるもんじゃないね、あれは。世界の力強さと海の偉大さをひしひしと感じさせられるよ。―話を戻すけど、島も大陸も太陽も星も、何もかもがはじまりの海の底にある大きな穴、海誕大穴から生まれるんさ。古の大戦で世界はその有様を大きく変えちまったから、大海原は吐き出すしかなかったんだろうね」
「…古の大戦、ですか?
「そう。あの大戦さ。
ラリクスはリリアの説明に食い入る様に身を乗り出し、耳を傾けている。初めて聞く神話の内容に興味津々なのだ。
「昔は地殻って奴があってそれが島や大陸を作り、固定していたらしいけど今はそれが無い。だから海誕大穴は、島とか大陸とかを作って吐き出しているんだとさ。―そんで島や大陸、つまり岩の塊を海の上に浮かしてるのが
リリアは茶を飲み干すと、陶器の茶碗を机の上に置いた。
「今この大海原には多種多様な生き物が住んどるが、生きるってことは立派な
ここで一旦言葉を切ると、リリアはセノルをちらりと見やる。
「生命は海精を取り込むことで無理やり
「親和性、ですか。何です、それは?」
「
「えっと、そのクルルスたち超位種族しか、海精無しで
その質問にリリアは、微かだが感嘆の息を吐いた。
「あんた理解力があるね。感心したよ。…しかも中々鋭い質問をする。王覇術の詳しいことは誰も分からないんだよ。古の大戦よりもずっと前からあったらしいが殆どが未知のままなんさ。全部で5つあるって事、1つでも習得出来たら種族の壁を超えた強さが手に入る事、寿命が伸びる事、超位種族でないのに
「…えっと
この質問には、リリアだけでなくセノル、クルルス、そしてクライフォードも驚いた。リリアに至ってはもう動じまいと、こめかみを揉みしだいている。
リリアはセノルをちらりと見やる。セノルは頷くと一礼し一歩前に出た。
「
そう言うとセノルは右手を差し出した。白い手袋を嵌めてはいるが、指の形がよく分かる。細長い5本に指は、先端が尖ってる。淡く発光する靄みたいなものが右手に纏わり付く。
淡い光の粒子が煙となって集まると、次の瞬間―赤い炎が吹き出した。
「―この様に、
赤い炎が2度揺らぐと、鳥の形となった。
美しい炎の鳥に、ラリクスは、思わず見惚れてしまう。
「我々、上位海精含む超位種族は、生命の本能程度の稚拙な術式じゃない、より高度なモノを組めます。より高度に成れば成るほど、自然とは逸脱した現象を引き起こせる。―〈覚醒者〉以外は
「術式ってのは
と今迄黙り込んでいたクライフォードが割り込み言う。セノルは若干苦笑しつつ指を打ち鳴らす。
炎の鳥が激しく燃えると、潮が引くように、縮まり消え去った。
「先程、組んだ術式は、空気を震わせることで高温にし、酸素という元素を供給し続ける事で炎を出す、というモノです。酸素は物が燃えるのに必要な要素。自然を構成する要素を知らねば具体的な術式が組めない。―自然を知ることでより具体的な術式を組み易くなるのです。自然を知るには、世界を知る必要がある。知識と経験が物を言うのです。…そして術式は組めてもそれを超位種族以外が実行するには、我々上位海精との契約が必須になるのです」
「―
とリリアは言う。本来なら今直ぐにでも知りたかったが大海原に出るからには、世界情勢や地理など、幅広い知識と教養があった方がいいだろう。
天を知り、海を知り、世を知らなければ、船乗りにはなれない。
風を読み、波を読み解き、海と共に生きるのが船乗りである以上、海を何よりも深く知り理解しなければならない。ラリクスはリリアの言葉に頷いた。
「…はい。分かっています」
「いい目付きになった。覚悟の決まった男の目をしとるね。―お嬢ちゃん、随分良い男捕まえたじゃないの。ええ?中々の珠だね」
「え、そ、そんなゆじゃないです!?」
リリアの下世話な質問に、クルルスは慌てて否定した。それはもう大層力強くきっぱりと。
それに何故か傷付いたラリクスは、悲しげな顔をし、それに気付いたクルルスがしどろもどろすると云う謎の珍事態が発生し収集がつかなくなりつつあったが、リリアはそれを咳払い一つで収めた。
若干の気まずさが漂う中、リリアは茶を飲み一息つくことで場の雰囲気を切り替える。
尚、いつの間にか空だった筈の陶器の茶碗に、茶が並々と注がれているのだがこの際、気にしないことにする。
「う、生まれ着いての船乗りってわけかい。クライフォードが気に入るわけだよ。…まあ、話を戻そうかね。神話云々は忘れても構わないけども、これだけは覚えといてくれ。―
リリアは立ち上がると、部屋を出た。セノルも一礼するとリリアの後を追う。
ラリクスは力強く頷く。何度も何度も。
虹色の
夢に向かい羽撃く為。野望を実現する為には努力を惜しまない。先人の知恵が貰えるのなら貰う以外の選択肢は有り得ない。
ラリクスはこれから数日間送るであろう充実した日々を想像だけでわくわくが止まらなくなる。
そしてその先歩むであろう大冒険と、クルルスと過ごす日々に思いを馳せる。物語の様な大冒険が経験出来ると思うと動悸が高まり、高揚感に支配される。
ラリクスは、全身を支配する熱き激情のままに言葉を紡いだ。
「よろしくお願いします!リリア師匠!」
「ぶほぉ!!けほっ、けほっ!何だい、その呼び名は!止めてくれ。虫唾が走る」
リリアはラリクスの万感の想いが込められた言葉をぶつけられ盛大に噎せたというが、多くな者は知らなかった。
―――まとめ―――
①
②海精:精霊。超位種族っていう化物の仲間で、
③
④王覇術:上位海精との契約無しで魔法使えるっていうチート。何か使えるようになると新陳代謝が異様に、活性化して寿命とな回復力が上がる。超位種族もくそもないじゃんって話よ。
⑤海誕大穴:四次元ポケット的なナニカ。マナとか世界を生み出している。
※上記の解説を元に噛み砕いて頂けると幸いです。
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