クリスマス特別編  雪の降る日(カクヨム版オンリー)

※本編とは何の繋がりのない短編ストーリーです。

※来年以降も出来れば上げたいと思ってますが、気分次第です






 雪がしとしとと降り注ぎ、冬の冷たい風が、木々や池を、そしえ川をも凍てつかせる。


 夜の帳が降り始めてから、降り始めた雪は、森林を一面の雪景色へと変化させた。

 

 森林の奥に、ぽつりと空いた広場に建つ小屋。

 その小屋の煙突からはもうもうと煙が立ち昇り、風に吹かれて揺らいでいた。

 つい最近まで、廃屋だったその小屋は、綺麗に手入れされ、二人の若い男女が暮らしていた。



「…ん。ふわぁあ、ああ。…朝、か。ん、クルルスは?」

 冷たい風に頬を撫でられ、目が覚めた、ラリクスは目の前にクルルスが寝ていない事に気付き、寝ぼけ眼を擦りながら辺りを見渡した。


「ん?この匂いは」

 何処からともなく漂ってくる美味しそうな香りが、ラリクスの鼻孔を擽り、ラリクスの意識は一気に覚醒する。

 クルルスが台所に居ることが判ったラリクスは、寒いの我慢しつつ部屋を出た。


「メリー・クリス=マス!ラリクス」


 台所に着いたラリクスは驚きの余り、声が出かき居た。森に住む鳥や猪の姿焼き。山菜のサラダや、豆のスープ。

 配膳された全ての料理がラリクスの視覚と嗅覚を存分に刺激し、食欲を唆る。

 ラリクスに教わり料理の腕を磨いたクルルスの料理は既に、店に出しても良い、ラリクスと比べても遜色のないモノとなっている。


 何故今日、12月25日がこのようなご馳走なのか。それは、ロロスロード王国発祥の祝日だからだ。

 ロロスロード王国の前身であるロロスロード評議国を建国した七賢人が一人、〈聖者〉キリステル=サーニコラスの誕生日であり、それを祝う為の祝日が、クリス=マスなのだ。

 親しい間柄で、一年の苦労を労い、飲食を共にすることで邪気を祓い、新年の安全を祈願する。


「メリー・クリス=マス!クルルス」 

 ラリクスはクリス=マスの決まった定言をクルルスに返す。 


「ご飯作ったから一緒に食べよ。今日は私が1日中料理するからね」

 クルルスは自身の手料理を指差し言う。

 ラリクスとクルルスは席に着くと手を合わせた。

「いつも料理ありがとね。ラリクス」

「どういたしまして。僕はクルルスが一人前に料理出来るようになって嬉しいよ。最初の頃なんか―」

 感慨深く呟くラリクスの言葉に、クルルスは慌てて大きな声を出しかき消した。

「ああ!!聞こえないぃー!」

「―はむ!もぐもぐ…。美味しいよ、クルルス」

 そんなクルルスの抗議を気にせず、ラリクスはクルルスの手料理に齧り付いた。

 無視をされ頬を膨らますクルルスであったが、料理を褒められた途端に破顔する。

「えへへへ。そうかなぁ。私も食べよっと!もぐもぐ…。うん、美味しい!」

 ラリクスとクルルスの二人は笑顔で料理を楽しんだ。


「ねえ、ラリクス。ちょっと外に出よう?いいものが見えるよ」

 とクルルス。防寒対策として小屋の窓は全て閂で閉ざしてある。よって中から外が見えないようになっているのだ。


 きっちりと防寒具を着込んだ二人は外に出る。すると―。


 夜が終わり、真っ赤に燃える朝日が、山々の山稜から顔を出し、温かな日差しが、降り注いだ雪を、凍てついた川を池を鮮やかに照らし、銀色に光り輝く美しい絶景が目に飛び込んできた。

 朝日の一筋一筋が、雪の積もった木々の枝を照らし、枝から垂れる氷柱つららをシャンデリアの様に輝かせる。


 川に張った薄い氷の表面で、日の光りは乱反射し、七色に輝く。朝日の力強い息吹は凍てついた池にも命を吹き込む。なんの変哲の無いただの氷が今は、宝石のようにキラキラしていた。


 まだはらはらと降っている雪の一つ一つに、朝日は辺り、光り輝かせている。まるで空から宝石が降っているかの様だ。


「うわぁ…。綺麗だ」

「でしょ。これが私の君への贈り物。輝かしい冒険の1ページに刻む美しい絶景をね」


「…最高の1ページになりそうだよ。…僕は君に貰ってばかりの気がするよ。冒険に連れ出してくれたあの日から僕は何一つ君に返せてない」


「そんなことないよ」とクルルスは言う。ラリクスの手を優しく両手で包み込む。


「私も君からたくさん贈り物を貰ってるよ。毎日ね。だからお相子だね」

「何処が?全然贈り物あげてない気がするんだけど」


 そんなラリクスの言葉に、クルルスは輝かしい、眩い笑みを浮かべると、こう言った。


「―秘密!うふふふ」

(…君が居るだけで、君と冒険できるだけで、私は充分幸せなんだよ。これからも宜しくね、ラリクス) 

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