第六話 平和的交渉(平和的対談)。
ふかふかの寝台に、ふわふわの生まれて初めて布団の温もりを知ったラリクスは人生の中で最も深い眠りにつけた。
今までより心地よく気持ちの良い感触にラリクスは今までの睡眠は、睡眠で無かったと思い知らされた気分だ。清々しい気分でラリクスは朝を迎えた。
そして今、ラリクスとクルルスの二人は、ロロスロード・グランテ・シルカナ=ロードイを経営するロロスロード・グランテ海興会社の役員の猿顔の
周りの客は昨日の事を知っている為、我関与せずを貫いている。だが品と風格が損なわれない程度には賑やかだった。
二人とも、特にラリクスは初めてにも拘らず賭博行為にて素晴らしい結果を残したので、ロロスロード・グランテ海興会社の上層部は是非とも常連になって欲しいのだ。通常のと違いこの
やはり人間たるモノ自分に利益をもたらす存在とは仲良くしたい。良好な関係を築こうと努力する実に合理的な社会生物だ。
合理的な利益追求する為に、クルルスとラリクスの二人は天国のような食事を現在進行形で堪能しているという訳である。以上説明終わり。いやはやこの世にはうまいものが溢れている、実に素晴らしいとラリクスは思った。
「これからも弊社の娯楽施設をどうぞ御贔屓に。ラリクス様、そしてクルルス様」
黄金の酒、
瑞々しく同時に香ばしい肉汁が噛み締める度に溢れ出てラリクスの舌の上で踊りだす。大量の肉汁をごくごくと音を立てながら味わうと―、
「―くう、旨いッここの料理は最高だな!酒もうまいしもうここにずっと住みたい」
男を勝ち取りたいのならそいつの胃袋を掴めとか言う先人達の知恵はどうやらこの世の摂理らしい。さっそくラリクスはロロスロード・グランテ海興会社側の上役の思惑に囚われてしまっている。
「もう、ラリクスゥ。どうしてここ来たか忘れてないぃ?」
……、かく言うクルルスも相当に酔っている。本来ならば目的から外れない為に誰か留めるべきなのだが今回は二人ともべろんべろんになってしまっていた。このままでは冒険どころの騒ぎで無くロロスロードに永住する事が決まってしまう。
だと云うのに酔っている二人は全く気付かない。あろうことかクルルスなど惜しい料理作れるようになったらラリクスを独り占めできるのか、と一人後で冷静になると悶絶するようなこと考える始末だ。
ラリクスとクルルスは酔えてしかもおいしい料理が食べれて幸せ。経営側の二人は上司の意向を叶えられそうでウハウハ。ある意味利害関係が一致してるが故、事態に収拾がつかない。
次から次へと酒と料理が運ばれ、ラリクスとクルルスの二人に釣られて酔いだした二人は気分が良くなり、個人的な資産から最高級な酒を二瓶買うと見物ショーとして服を脱ぎだすという騒動に発展しようとしたその時――、
一人の救世主が現れた。それは男で最高賓客用のこの料亭の従業員に開けてもらいながら堂々と胸を張り、一歩一歩を踏み締める。
男の登場により上品だがそれなりに賑わっていた料亭が一瞬にして静まり返る。
その男の強者としての風格や貫禄に当てられたのだ。黒く美しい羽毛を持つ鷲の
海鳥よりも鋭い嘴と、鷲よりも立派な漆黒の翼を背に持ち、人の腕には爪があり羽毛に覆われている、新世代と呼ばれる珍しい
男はすんすんと鼻を鳴らしながらしばらくその場に佇むが、やがてラリクス達のテーブルに歩き出した。
そして、静まり返った空気など知らんと言わんばかりに食事に専念するラリクスとクルルスの二人の背後に立つと、クルルスの肩にポンと右手を置いた。
「…懐かしい風の香りに釣られて来れば、―久方ぶりだなぁクルルス。あまり変わってねェようで安心したぜ」
見た目通り厳つくも良く通る深い声で語られる言葉は静まり返った料亭内によく響く。背後からの声にクルルスは振り向き、声の主を確認すると大きく目を見開いた。
「―新世代の鷲族の男……、クライフォード!?ひさしぶりじゃん、大監獄以来だよね?10年、20年?何年前かな…?」
満面の笑みを浮かべてクルルスは言う。
ついでに肩に載せられた手を目一杯払う。バシンと小気味が良い音が鳴った。
クルルスの払い方が意外に効いたのか右手は振っている。そして、クルルスの返事にクライフォードは顎に手を当て昔を振り返る。
「俺が60ん時だから30年前だな。―いやはや年取ると短命種は時間を早く感じるもんだな。一日一日が早くってしょうがない。長命種のお前が羨ましいぜ」
「……あ、あのクルルス、この人誰?なかなか強そうだけど」
ラリクスの申し訳なさそうな言葉に、クライフォードはラリクスの存在に改めて気付き視線で此奴は誰か、と問う。
この、二人の何気ない仕草からもクルルスとクライフォードの二人の付き合いが長いことが伺える。
ミルフォルネと役員は空気は読んでか、一礼するとその場を立ち去る。ついでに上客の一人でもあるクライフォードに出す酒を頼んで。粋な計らいである。
「クライフォード、こっちはラリクス。前、手紙送ったでしょ?その人だよ。―今は一緒に冒険しているんだ。で、この
「ただの仕事仲間でいいだろう、そんなもん。あと俺を年寄り扱いするな。―まだ、90になったばかり、人生これからって時に辛気臭せぇ。長老方からしたら俺なんてまだまだ小僧、年寄りっちゅう称号はああいう連中に送るべきだ」
苦笑しつつ頭を掻きながらクライフォードは言った。自分を年寄り扱いするな、と。
「で、お前さんがクルルスの言ってたラリクスか。俺はクライフォード・チャウラ・フォン。―聞いてたのと随分印象が違うが、どいうことだ?もっとこういかつい野郎を想像したんだが。…それにこの風、随分と古臭ぇな…婆様が言ってた奴か?―ッといけねえ。こっちの話だ気にすんな」
一人ブツブツ言うクライフォードに対し、ラリクスが不安そうな顔をした為にクライフォードは考える事を止めた。どこか引っ掛かるが仕方ない。
申し訳なさそうに恐る恐るラリクスは口を開く。
「僕はラリクスと言います、クライフォードさん。信じられないかも知れませんが、クルルスとの記憶が無くなってしまったらしくて…」
クライフォードはちらりとクルルスを見やるが、クルルスは悲しげに目を伏せる。今の発言が不味かったことに気付いたらしく、クライフォードは若干気まずくなりつつも話題転換に努めた。
「―あぁと、不躾な事を言ったようだな。どうも思ったことが口から出ちまう性分でな。すまん、迷惑を掛けた。どうしてこの国に来たんだ?しかも
「リリア・ララインっていう人を探しでるんです」
「そ、正確に言うとリリアっていう人を知ってる人を探してるんだ」
「……ほぉ。成程ねぇ。確かにあの人を探すにはここしかないからな。―どうして探してるんだ?」
届けられたこの店で1番強い酒を片手にクライフォードは言う。実に様になる格好いい絵だ。
酒の入ったグラスに鼻を近付けるとたっぷりと匂いを嗅ぐ。そしてそれを少量だが煽る。
その瞬間に広がる舌を突き刺すような痛みと、喉を焼くような刺激、そして強烈な酒精の匂い。
常人ならば秒で吐き出す様な酒をクライフォードは美味そうに飲み込む。途端に広がる強烈な酒の香りにさしものラリクスも渋い顔だ。
「―ごくごく、ぷはぁ―ふうぅ、…
酒精度数97の怪物を煽るクライフォードの事をまるで化け物をか何かを見るかのような目で、クルルスとラリクスは見つめる。
「大いなる
「そうです。それで昨日、ここに来てリリアさんの居場所は一番弟子らしき人が知ってるっていう情報を掴んだのは良いんですが、―それから八方塞がりで。クライフォードさんはそのリリアさんの弟子とか言う人知ってますか?」
その質問にクライフォードは、グラスの中身全てを飲み干してから答えた。ダンとグラスを机に打ち付けると右手で嘴に付いた酒を拭い、
「
丁度その時、給仕係が
クライフォードはそれを受け取ると瓶の封を切り、一気に煽る。5分の一が無くなった所で、クライフォードは瓶のを置いた。そして―、
「知ってるぜ。リリアっ
その言葉にラリクスは食らいつく。勿論クルルスも。
「「本当に?」」
そして図らずも二人同時に被ってしまった。二人は恥ずかしくなり頬を赤める。
それを見てクライフォードは爆笑をした。時折、猛禽類のような甲高い音が嘴から漏れ出たが気が高ぶっている証である。
一頻り笑い空気の漏れ出る様な呼吸になってしまったが、息を整えるとクライフォードは
「あぁ。…知ってるも何もリリア・ラライン。婆様の一番にして唯一の弟子たぁ俺の事だからよ。お前さんらの事だったのか。―婆様と俺のことを嗅ぎ回ってる二人組ってのは。縁っ
「「えぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」」
今度ばかり重なってしまうのも仕方ないだろう。
一番衝撃を受けているのは付き合いの長いクルルスだった。
しどろもどろに狼狽え視線が右へ左へと泳ぎまくっている。
「え、は、へ?え何、え?ちょちょ、え?あんたってそんな偉い人に海精の使い方とか教わってたの?初耳何ですけど!?」
「んあ?言ってなかったっけか?婆様の弟子だって」
酒を飲み答えるクライフォード。
「あんたね!あれだけ皆で隠し事は無しって言ったのに、何でこんな大きい話、隠しんだよ!」
あまりの衝撃に二人共酔が覚めてしまった。ツツキドリの巣を突くとはこの事を言うのだろう。
「まあまあ細けぇことは良いだろ。昔のことだしさ。な?いい女の子っ
「よくないよ!!」
二人の喧嘩に、若干モヤモヤした気持ちでラリクスは割って入る。
ここに来た本来の目的を果たす為である。
「あの、それじゃあクライフォードさん。リリアさんの居場所を教えてくれませんか?」
ラリクスの真剣な言葉にクライフォードは顔を引き締め、改めてラリクスとクルルスの二人に向き合った。肌を突き刺すような威圧感が二人を襲う。
「婆様に会いたい
クライフォード自身の屈強な戦士然とした肉体随分と様になっている。
既に周囲の客から注目を集めていたラリクス達であったが、クライフォードのその姿を見て女性の客らから黄色い悲鳴が、男性陣からは嫉妬のため息が聞こえてきたが知った事ではない。
「だが、そんな訳にはいかないよなぁ。お前さん方は婆様に会うために遠路遥々ロロスロードに来た訳だからな。ってな訳で平和的交渉をしようじゃないか」
その言葉に、すべてを察したクルルスは呆れた顔をする。疑問に思ったラリクスは首を傾げたがそれが不味かった。
クライフォードは豪快な笑み(多分。だって鳥だもん。分かる訳ない)を浮かべると
「平和的解決手段っ
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