序幕 大航海の幕開け〈後編〉。
「お久しぶり、少年君。元気にしてたかい?」
その言葉にラリクスは困惑していた。ラリクスは確かに毎日海を眺めていたし、何人か
だが、それだけだ。こんな美少女、ましては
どうしてこの少女は自分の事を知っているのか。そもそも人違いではないのか、一体誰なのか。それらを訪ねようとしたのだが他人と話すことが凄い久しぶりなので言葉に迷っていた。
何かを言いかけては口を噤む。それを察したのだろう少女は、少し寂しそうな笑みを浮かべながら口を開いた。
「覚えてないよね、うん。分かっててもちょっと凹むなぁ。……私はクルルス。
その仕草に何故か胸が抉られるような痛みを受けつつラリクスは言葉を返した。
「…僕はラリクス、
ラリクスはがらんとした気持ちになりつつ言った。本当にクルルスとかいう少女に会った記憶がないのだから仕方がない。ずきりと頭が痛くなった気がしたがあくまでそれは気のせいだろう。
クルルスは頭を振ると自分の胸に手を当てた。
「君が覚えてなくても私は覚えてるよ。間違いなく君と、ラリクスと出会った事を覚えてるし忘れるわけがない。君との思い出は私の大切な宝物なんだもん」
そして、ラリクスを指差す。ラリクスは気まずくなってくる。やっぱり人違いなのだろう。このような事を他人がラリクスに言う筈がない。同名の別人なんだ。
「ラリクス、君は九つ諸島北の島の海岸で拾われたよね?」
くすくすと笑いながらクルルスは言う。困惑するラリクスの顔が面白くてたまらないのだ。あまり人に言ったことのない事実をつらつらと述べられラリクスは更に困惑した。
「え?何でそのことを…、数人にしか言ってないのに。本当に会ったことがあるのかな」
困惑しながらラリクスが呟いたそれは、常人なら聞こえないだろうが優れた五感を持つ
「そうだよ、君が覚えてないとしても私は忘れない。ラリクスはさ、海に対して憧れを抱いていなのかな?この広い大海原を冒険したいと思ったことない?」
何故だろう。クルルスが紡ぐ言葉を聞く度に体が暑くなってくる。
「覚えてる覚えてない、忘れた忘れないはこの際置いといて、どうなの?この広い大海原に飛び出してみたいと感じたことはないの?」
何故だろう。クルルスに話し掛けられる度にとくんと心臓が高鳴りだす。
ああ成る程、これが他人の温もりなんだ。ラリクスは思う。確かにこれは温かいし心地よい。
ラリクスはクルルスの話しに引き込まれていく。
いつの日か、海に出ることを夢見てきたが今叶いそうだ。海賊ではないが、海を旅する種族と共に旅できるのは僥倖かも知れない。
「あるけどそれがどうかした?」
ラリクスは恐る恐る言の葉を紡いだ。
「クルルス、君が僕を連れてってくれるの?」
その言葉にクルルスは一度だけ大きく頷く。
「君が望めば今すぐにでも連れてくよ」
「…いろんな所に行きたいって我儘言うかもしれないよ?とこにでも連れてってくれるかな?」
その言葉に当然だともとクルルスは頷いた。
「君が望めばどこまでも。この広い大海原の果てまでも連れてってあげる。
海はね、とっても大きくてたくさんの出会いがある場所なんだよ」
クルルスは自分の胸に手を当て言う。当然だと云うかのように。
「……僕はね、ずっと一人ぼっちだったんだ。だからね、一人じゃないってことに若干怖くもある。だけど同じくらい憧れてしまう。――僕にとって他人の温もりは甘い蜜でもあり毒でもあるんだよ。きっと一度でも知っちゃうともう二度と一人に戻れないと思う。だから最後の最後まで一緒に冒険をしてくれるかい?途中で僕を一人にしない?」
ラリクスは恐る恐る確認する様に言う。ずっと一人ぼっちだった故、他人の温もりに憧れと恐れがある。
その言葉にクルルスは爽やかな笑みを浮べると、ラリクスを安心させる様に優しい声音で話し掛けた。
「勿論、君が望めば最後まで冒険をしよう!私と一緒に海に旅に出ようよ!目的なんかいらないよ。海では自由なんだからさ。一緒に海に出ようよ!」
そう言ってクルルスは手を差し伸べる。暗い何の変化の無い灰色の世界に鮮やかな光を与える腕だ。
その言葉を聞いてラリクスは―、
「ああ、僕をこの広い大海原に、大冒険に連れてっておくれ!」
白い水飛沫が上がる。潮の雫一粒一粒が光り輝き、蒼いキャンパスを彩る。
物凄い勢いで島が陸地が遠ざかる。そして、風を切る。潮風がぶち当たり、二人が通った跡が白い漣を生み出す。
クルルスとラリクスは海の上を進んでいた。淡い不思議な光りが二人を優しく包み込み、
クルルスとラリクスは手を繋いでおり、繋いだ手から暖かな力が流れ込んでくる。
妙な陽気に包まれた中、ラリクスは叫ぶ。
「さあ、この広き大海原に出掛けよう!」
それに習いクルルスも大きな声で叫ぶ。さも嬉しいと幸せだと言う様に言葉を紡ぐ。
「この素晴らしい冒険に幸あらんことを!!」
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