生徒会夫婦のイシンデンシン

伊古野わらび

「始めてください」

「───本当によろしいですか?」


 その言葉に躊躇しなかったと言えば嘘になる。

 思い入れが強かった訳ではないけれど、長年維持してきたものを手放す、そのことに対する恐れは確かにあった。

 それでも。

 今まで踏み出せなかった一歩を踏み出すために。


「始めてください」


 深呼吸して前を真っ直ぐ見つめれば、同じく真っ直ぐこちらを射抜く鏡の中の自分と目が合った。


 そして。


 シャキン。


 新しい自分になるための音が、首の後ろで厳かに響いた。

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