第6話 ありがとう・・・

「雪、確かに私は譲だけど、なんで佐々木先生じゃ無いってわかるんだ?」

「だって先生は私の事『雪』なんて呼ばないでしょ。あと譲、気づいて無いと思うけど私の名前の呼び方、イントネーション他の人と少し違うのよ」

雪は微笑みながら喋るがその声に力が無かった。

「なるほど、でもそんな現実的に非科学的な事を信じるんだ?」

「ふふ、横にある引き出しを開けてみて」

サイドテーブルにある引き出しを開ける。私は驚いた。


『皆のこころ』


「雪、これって・・・」

「そう、私も『時代屋』を使ったの。一時間前に戻っていたの」

「一時間前?そんな直近にもどれるのか?」

「一時間前でも過去は過去よ」

「一時間前に戻って何をしたんだ?もっと過去に戻ればよかったのに」

「ねぇ譲、落ち着いて聞いてね。あなたの目の前でお爺ちゃんがタクシーに乗る事で、譲が病院に行くのを邪魔したのは私なの」

「?!なんで、そんな事をしたんだ、そのせいで私は雪に会えなかったんだぞ!」「譲はね、慌てて私に会おうとしてタクシーに裏道を使って病院に行こうと指示するの」

「そりゃ早く会いたいからそうするよ」

過去の自分なら慌てていたはずだ・・・

「でもね、無理な裏道の指示をした事で事故にあうの・・・」

「事故だって?!」

私の全身から血の気が引いていくのがわかった。雪は私を助けるために一時間前に戻ったというのか・・・

「私はもうダメなのに・・・譲まで事故に会うなんて耐えられない・・・だから戻ったの。これが私にとって最期に出来る事・・・」

「雪・・・」

「あなたに会えて本当に良かった・・・特別な事はしなくていいって言ったけど譲に会えて・・・恋人になれた事が・・・一番の特別な事だよ・・・」

「雪・・・」

「姿は先生だけど・・・ちゃんと譲だね。来てくれて・・・ありがとう・・・最期に言えてよかった・・・」

雪は静かに目を閉じる。

「おい、雪!雪!」

そこに医師が入ってくる。

「みなさん外に出て下さい!早く!」

・・・・・・・

・・・・・・・


雪が亡くなって10分後、息を切らした過去の私がやって来た。

「佐々木先生!雪は?雪は!」

私は静かに首を横に振る。

「そんな・・・」

過去の私は物凄く酷い表情をしている。こんな姿を雪に見せなくて本当に良かった。これでよかったんだ。

「飯野・・・」

私は過去の自分に話しかける、

「今は辛いかもしれない、でも君は生きている。前を向いて歩きなさい。それが三崎が望む事だと思うんだ」

「先生・・・ありがとうございます。雪に会ってきます。失礼します」

「ああ・・・」

思い出した、雪が亡くなった事で周りが見えていなかったが佐々木先生と話したのを思い出した、まさかそれが私自身だとは思ってもみなかった。


廊下の椅子に座る、過去に戻ってわかった事、雪は私を助ける為に『時代屋』を使ったんだ。もっと別の過去に戻ってやりたい事もあっただろうに・・・

鞄にしまった本を取り出す。

「この本、雪も持っていたんだな・・・」

本の表紙を見つめる。不意に眠気がやってくる・・・元の時間に戻るのか?

私は流されるまま目を閉じた・・・

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