第5話 病院へ

私は角で様子を伺う、予定通り老人はタクシーを拾い乗り込む、奥で過去の自分が悔しそうな顔をして病院に向かって走って行く。もう過去の自分は間に合わないであろう・・・


すると、向こうから空車のタクシーがまた走って来た。なんてことだ、もう少し待っていればこのタクシーに乗れたかもしれない。よほど運が無かったようだ。

その瞬間、思いつき私はタクシーを停めた。タクシーに乗り込む。

「どちらまで?」

運転手が聞いてくる。

「北病院までお願いします」

そう、今私は佐々木先生である。担任であれば雪に会えるかもしれない。

シートベルトをつける、運転手は少し驚いた顔をして。

「シートベルトをつけて頂きありがとうございます」

そうか。この時代は後部座席のシートベルトは珍しいのか、タクシーが走り出す。

「お客さん、駅前で事故があったそうですよ。その影響で少し渋滞してますね。そんなには変わらないと思いますが裏道通りますか?」

「いや、普通に行って下さい」

「わかりました」

ラジオから会話が流れてくる。

『この夏はどうすごしますか?』

『海で泳いだり、花火を見たいですね!』

世間は私が何をしなくても動いている。雪ともう少し過ごしたかったなと窓の外を見ながらタクシーは走って行く。


渋滞はしていたが何とか病院に着いた。エレベーターで雪の入院している3階で降りる。

「佐々木先生!」

声がする方を見ると雪の母親がいる。私はお辞儀をする。

「雪がさっきまで意識が無かったんですが、意識が戻ったんです!主治医さんの所に行ってくるので話をしてあげて下さい」

「わかりました、気をつけて下さい」

母親は走り去っていく。

ノックをして中に入る。雪は酸素マスクをつけてうっすらとこちらを見る。

「雪!大丈夫か?」

私は雪に呼びかける。

「先生・・・?違う・・・譲でしょ・・・」

私は驚いた、佐々木先生の姿なのになぜ私と判ったのだろう・・・

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