第3話 思い出

「昔彼女がいてね、雪・・・、『三崎 雪』って名前なんだ」

私は、女性に話し始めた。

「高校一年の時付き合い始めた。明るくて優しくて私なんかには勿体ないくらいだった」

「・・・はい」

「でも本当に楽しめたのは一年間だけ、高校二年の時、雪は病気になった。もう手遅れだった・・・」

「・・・はい」

「雪は言ったんだ『これからも、今まで通りに会ったり遊んだりしましょ。特別な事をされたら辛くなりそう。譲と普通に時を過ごしたい・・・』って言うんだよ」

「・・・はい」

「なんでそんな事言えるんだよ。私はもっと雪と思い出を作りたかった。いろんな場所にいろんな事をしたかったのに・・・」

「・・・私は雪さんではないので本心は判りませんが、きっと特別な思い出は後にあなたにとって苦しい思い出になってしまうと思ったのではないでしょうか」

「ああ、私にもそれは判った。だから普通に会い、普通にメールをして、普通にデートにも行った。病気が無かったかのように過ごしていた。今考えると逃げていたのかもしれない。高校三年になって雪は入院した。見舞いにも行った。ある日、病室で雪がこう言うんだ・・・」

「・・・はい」

「『もし、私にもしもの事があっても慌てずに会いに来て。急いで来て息の上がった譲の姿を見たくないから。それが最期の譲の姿にしたくないの、あくまでも普通に来てほしいの』って言うんだ」

「・・・はい」

「そして、運命の時が来た。雪の親から電話が入って雪の容態が悪くなった知らせだった・・」

「・・・はい」

「その日は何故か運が悪かった、病院行きのバスは時間通りに来ない。あとから知ったが事故があって来なかったんだ。私は走って病院へ向かった、そしたらタクシーが空車で走って来た、乗ろうと思ったら手前で老人にタクシーを止められた。もう少し早ければ間に合ったのに・・・雪を生き返らせようとは思わない。ただ、間に合って雪に会いたかったんだ・・・」

「わかりました。先程も言いましたが過去を変える事は難しいです。慎重に行動して下さい」

そうすると女性は立ち上がり本棚に向かった。そして一冊の本を取り出す。

『皆のこころ』

「この本は譲さんが高校三年の時に発売された本です。手に取って目を閉じて下さい。気づいた時過去に戻っています。注意書きを守って行動して下さい。現在に戻るのは譲さんが満足した時か、目的が完全に達成できない時になります」

「わかりました。では行ってきます」

私は本『皆のこころ』を手に取り目を閉じた・・・

「行ってらっしゃい・・・」

女性の声が聞こえると眠るように意識が薄れていくのがわかった・・・

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