平竣
夜を日に代へて。少女は汽車に揺られる。此処は明るくともいつも夜汽車だ。
いつも世をおくり続けて居る夜汽車だ。昼はずっと夜でもある。
平かに少女は役目を終えようとしている。安らかに、安かに……
次は身形のきちんとした小さな少年がやってきた。ウールの帽子を被っている。
良く分からないといった顔をしているが、その顔をみて少女は、数刻前の少女自身をそれに見た。
つぎつぎと遣って来た、あの彼らが送ってきたそれは、少女のそれとは区分こそ違っていたものの、それは継承だった。同じ根本を抱えていたのだ。それは言わずもがなの前提であった。
――僕らは一本の糸で繋がって居るのだからね。
彼が云ったことも今夜汽車を降りようとしている少女にはちょっとだけ分かった。
然ようなら、と夜汽車のすべてに労いの意を傾けて、少女はドアの傍に佇んで降車の訪れを待つ。
振り返る車内はぼんやりとうたた寝をしているような暖かい灯りに装飾されており、沈んでもいたが、幾分明るかった。
さっき訪れた少年に少女はひとつ目配せをして、まるでさっきの眼鏡の男性のように、やさしく会釈をした。
君のおくるものが、どういう
急襲とは無縁だった、この幼い少年へ向けて、少女は目線に来星を託してホームに去った。扉の開く古くさい音。少女以外の誰かもホームに降りる音。
少年は少女の座っていたボックス席にひとり腰かけた。
夜汽車はまた走り出した。声のせぬ号令と共に何処かへ向けて方向転換している。
宵の明星が直ぐに目に飛び込んできた。少年は未来の星空と、今とを比べてどこか違和感を覚え心中ひそかに首を傾げた。
少女を迎えた懐かしい星の並びは、あのころそのままだった。
少女の帰りは果たされ、また少年へと席が移る。
誰もが惜しげもなく時代を手離すのは、理だと割切っているからだろうか?
美しい世に執着が似合わないとは、昔から通ずるような一説であるのだ。
――そうね、どうか美しくあれ
あたらしくも 過去と和するようなやわらかさを、噫―――
天命。北極星が僅かにゆれながらその位置を変えず。九天直下が臨機に転じた。
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