探偵は大胆にコトに当たる

「見つけた!」


 高速を走るには相当頑張ってパワーを出さないと普通には走行できないベスパで制限速度を超える車を相手にすり抜けながら少しずつ少しずつ距離を縮めて行ったんだけど、この可愛らしいバイクであることが重要なんだ。


 ベスパと王子様なら桜花おうかは簡単に識別できる。


 さすがに手を振ってしまったら関係者だと丸わかりでまずいけど。


「社長、どうする? 俺がバスに乗り移ってみようか?」

「そうねえ」

「え!? 無理でしょ、田代さん!? 危ないからやめてください!」

緋糸ひいと、そう言うな。俺だって桜花をなんとか助けたいんだ」

「そうよ、緋糸クン。田代も昔は離陸した瞬間の飛行機に飛び乗ったりしてたんだから」

「え、ええっ!? セ、セスナかなんかですか?」

「ううん。ジャンボジェットよ」


 ハリウッドじゃあるまいし・・・


「ただこのままずっと後ろを走ってると怪しまれるわね・・・なら、緋糸クン、飛び移れるかしら?」

「え・・・アタシ?」

「そう。難しいかしら?」


 自信は、ない。

 でも、そのために来たわけだから。


「やる。絶対に」

「OK。田代、ベスパをバスの死角に入れるから、緋糸クンが移るのをサポートしてあげて。それで移ったら念のためにダミーをサイドカーに乗せて」

「ああ」

「緋糸クン、いい?」

「うん」


 クン、とベスパがスピードを上げてバスの真後ろに着ける。ここならばどのミラーからも死角のはずだ。

 さて上がろうかな。


 ボシャ!


 破壊音がして何か降ってきた。


 ガラスだ。

 そこから金属バットがぶらぶらしてる。


「あっ!」

「その女の子だけ上がっておいで」


 やっぱり犯人は女だった。


「行ってくるね」


 犯人が下ろしてきたロープを登り、後部座席から車内に入る。後ろに手を回され、結束テープで固定された。


「足もだよ」


 両足首も結束テープで固定され、イモムシ状態だ。


 この作業を、アタシのすぐそばにいた男の子にやらせたんだ。

 犯人は金属バットを自分の近くにいる女の子の頭上に振りかぶったままで。


 まさしくアタシは手も足も出せなかったよ。


「で? オマエ誰だ?」

「家族だよ」


 犯人から訊かれ、嘘をついても仕方ないので素直に言った。


「ふーん。この子が妹だろう」


 犯人は一発で桜花を指差した。桜花は運転席の真後ろにいた。


「そうだよ。なんで分かったの?」

「この子が一番落ち着いてたから」


 そうだろうな。

 でもそれが不利になることもあるんだな。


「アナタは何がしたいの? 要求は?」

「その前に。バイクで高速までバスを追っかけに来て、それでただの家族でスルーするわけないでしょ? 何者?」

「探偵助手」

「へえ」


 窓から見ると、右車線に並んでベスパが走っていた。


「あれは、仲間?」

「社長と副社長」

「なかなか優秀そうね、二人とも。でも邪魔だわ、精神的に落ち着けない。アナタから言ってやって。高速を降りろって」

「この子たちの安全を確保してくれるんなら」

「・・・いいわ」


 アタシは窓から王子様と田代さんに、高速から降りるよう伝えた。ベスパは減速してバスの後方に回り、そのうちに遥か彼方に置き去りにされている。


「探偵さん」

「なに?」

「さっきの質問ね。今はまだ教えられない。それよりどうしようか、探偵さん」

「えっ」

「探偵さんの妹ちゃんをどうしようか、って言ってるのよ」


 まずい。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る