探偵は本丸にいきなり乗り込む
王子様、アタシ、
そして、なんと田代さん。
「遊びに行くんじゃないんだぞ」
「あらいいじゃなーい。はい、
「わあー、カワイイ♡ 王子様が作ったの?」
「そうよー」
「あ、桜花。かぼちゃのペーストは我が家のストックを提供したけどね」
「バレちゃったわ」
田代さんが運転するバンでアタシたち4人はB県に向かってる。
隣県とは言いながらB県へは山脈を越えないと行けない。田代さんはカーナビをB県の県庁舎にセットして滑らかな運転で険しい山道を走る。
「田代。ほんっっとに県知事とアポ取れたの?」
「ああ。俺を誰だと思ってるんだ」
「脅したんでしょぉー」
「人聞きの悪いこと言うな。情報と推理の一部をチラつかせただけだ」
「それを脅すって言うのよぉ」
朝イチに出発して、それでもB県庁に着いたのは午後に入ってアポの時間ギリギリだった。
「王子探偵社・代表取締役の
「はい、伺っております。ただ今ご案内しますので少しお待ちください」
そして今日一番の目玉は、王子様のスーツ姿だ。
「いつものグラムロック・ファッションで来るのかと思ってた」
「ちっちっちっ。
「ん? なんか違うよ」
「あれ? 『郷に入っては郷に従え』かしら?」
それも違うけどまあ言いたいことは分かる。
でも、王子様のスーツ姿はどこから見てもイケメンの若き青年実業家だよ。
アタシたちはそのまま真っ直ぐ知事室に通された。
「知事の
一応みんなで名刺交換した。アタシと桜花も名刺はきちんと持ってる。
でも大野知事はそこからだった。
「探偵ごっこか?」
「ごっこじゃありません。緋糸クンと桜花クンは我が社の従業員です」
「ほお・・・まあいいでしょう。それで私のスケジュールは分刻みだ。簡潔に答えてくれ。A社のこと、どこまで知ってる?」
「全部」
田代さんが短く答えた。知事はそのまま田代さんをカウンターパートとして会話を続ける。
「全部、とは?」
「だから、全部。大臣の奥さんがレストランを出店するごとに失敗して借金が10億まで膨れ上がってたことも、全部」
「・・・・・わかった。ブラフじゃないんだな。どうしたい?」
「どうもこうも、それは俺たちが決めることじゃない。貴方の問題だ」
「取引できないのか?」
「する意味がない。法に基づいた真っ当な手続きをすれば俺たちの債権も最終的には真っ当な扱いを受けて損失を出さずに済む」
「大臣の女房ごときが10億もの借金を返せると思うのか」
田代さんの代わりに王子様がいつもよりも数オクターブ低い、男性そのものの声で答えた。
「生命保険で借金返した零細企業の社長もいるぞ」
知事室に沈黙が流れた。
大野知事と王子様が会話する。
「わかった。大臣には責任を取らせる」
「大臣、てのはこの県が選挙区のあの大臣だが・・・いいのか?」
「ああ・・・ひよっこだ。女房の尻に敷かれてる。私に泣きついてきた。脅しも兼ねてな。応じないとB県への国庫補助金を削らざるを得ない、とな」
「貴方はどうする」
「私はどうもしない。大臣一人の責任で完結する」
「長閑なことだな」
「なんだと?」
「組織のトップとして不適合者だ、アンタは」
「小僧が。いい加減にしとかんとお前も潰さんといけなくなる。いや、生きて帰すことができなくなるかもしれん。冗談でないことも調査済みだろう?」
「もちろん。それでもアンタは甘っちょろい子供だ」
「まだ言うか!」
「ああ。これじゃあB県民がかわいそうだからな。いいか、政治家だろうが会社経営者だろうが、とどのつまりはいかに自治体や組織をマネジメントするかだ。その合理的な判断を根本からアンタは間違ってる」
「ふふ。弱者を救えなどとヌルいことを抜かすんじゃなかろうな」
「逆だろう。弱者を救うのはヌルいことじゃない。古今東西の政治家や英傑がやろうとして終ぞ誰も成し遂げていない難事業だ。ただ、本物のマネジャーは、それを諦めずに死の瞬間まで追い求める。アンタはラクな道を選んだだけのことだ」
「理想論でしかない」
「『政治』なんてものがそもそも理想論じゃないのか? 本当の
あ!
「『家事』だと? そんな瑣末なことのどこが重要だ!」
「大野、お前はダメだ。マネジャーに向いてない。辞職しろ」
「な、なんだと!?」
「自分から辞めないんなら、俺がお前を殺す」
・・・・・・・・・・・・・
3日後、大野知事は辞職会見を開き、大臣の汚職が明らかになった。
10日後、大臣は自殺した。
大臣の妻は、まだ生きている。
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