探偵は正義に生きる
探偵は巨悪に迫る
「ああ。何かこう、どデカイ事件ってないかしら」
「あるよ、王子様」
「え!
「幼稚園の先生が結婚するの!」
「わあ! 桜花、なに先生!?」
「レイサ先生!」
「はあ・・・おめでとう・・・」
王子様は決して暇な訳じゃなくて洋館ブランチ《支店》だって重要案件が入ってくるようになって本社と併せて王子探偵社の業績は良好なのに。
中二病の自分を満足させられないらしいね。
「社長。ちょっと相談があんだけど」
田代さんが洋館ブランチに営業時間中にやって来てくれた。
『王子様は孤独みたいですよ』と言ったのを気にかけてくれたのか、1日に一回はブランチに来てくれるようになった。でも今日は本当に案件の話らしい。
「社長。先月末にA社が自己破産申請したのちゃんと把握してるか?」
「もちろんよ。中途採用社員の信用調査をまとめて受注して報告書まで書き上げたのに、売掛200万円未回収だからね。その後の破産財団の配分協議とか進んでる?」
「それは管財人に一存だからな。それよりもA社のメイン業務だった公共施設建築のコンサルタントの大口顧客ってB県だったんだよ」
「あら。隣の県ね」
「受注の流れはこうだ。B県→A社→建設業者。たとえばB県が美術館を建てたい。予算は5億円。土地の買収から建設業者の入札から諸々後は全部A社でアレンジしてくれ、っていう風にな」
「まあ、ありがちよね」
「A社はそれを『コンサル業務』っていう名目でB県から請け負って、入札のルール付けというか計算式みたいなものも独自のシミュレーションで作ってたんだよな。それで面白いのがな、A社はアレンジしてその料金を受け取るだけじゃなくって建設業者と大元の発注者、つまりB県との代金決済の業務も引き受けてたんだ」
「ふーん。ちょっと出すぎた商売ね」
「B県が建設業者に代金を支払おうとしたら一旦A社に払ってそれから受注内容に応じていくつもの建設業者に工事内容に応じて支払うんだ。工事の進捗にも合わせてな。そして10億円が消えた状態でA社は自己破産申請してしまった」
「ちょっと。それって誰がまだお金をもらってない状態なの?」
「建設業者5社。全社で10億円」
「ひどいわね。ひどいけど、要はA社と取引するって判断はそれぞれの建設業者がした訳でしょ? 当然その業者が倒産するリスクだって織り込み済みよね」
「B県がわざとやったとしたら?」
「ごめん、ちょっと待って」
言ったのは王子様じゃなくてアタシ。そしてアタシと桜花との共通の意見として述べた。
「話がわかりにく過ぎるよ」
「ああ、すまんすまん。社長、まとめてくれ」
「田代、また無茶振りを・・・つまりB県はA社に10億円払ったことにしてるけど実は払ってない。A社を倒産させてうやむやにしてB県は10億円払わずに美術館を立てちゃった、ってことよ」
「実際は破産管財人が選定されてて、お金の流れなんかを明らかにしてくはずなんだけどな」
まあ、桜花も雰囲気でB県が一番の悪者だということだけは分かったみたい。ただ、アタシはもっと素朴な疑問を聞かざるを得なかった。
「でも、『県』でしょ? もっと小さい単位の『町』とかせいぜい『市』とかならばたまにそういうお粗末な汚職があるかもしれないけど、腐っても『県』だよ? エリート揃いだろうし仕事への信念とか志もあるだろうし」
「ちっちっちっ。緋糸クン。そもそも県のトップは県知事、『はいはい! やりますやります!』って自薦して職に就いてる政治家よ? 別に真摯でも誠実でもないかもよ」
「ああ、社長の言う通りだ。A社の専務とB県の知事が主犯じゃないか、って俺は踏んでる」
「でも田代」
「なんだ、社長」
「だからってA社とB県の汚職がウチに何の関係があるのよ?」
「大アリだろ、社長」
田代さんが珍しくエキサイトしてる。
「ウチの200万、みすみすドブに捨ててたまるかよ!」
アタシたちの給料、出ないと困るし。
「そうね。それに、小物のクセに悪いことする時だけ大物ぶってるのも腹立つわね」
王子様もやる気だね。
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