探偵は探偵という属性をやり抜く

 探偵、っていう職業がどうしてもドラマやアニメや漫画や小説といったエンターテイメントの題材となりやすいせいだろうか、現実離れしたものに捉えられがちだけど、こんなに現実と密接に結びついた仕事はないと思うんだよね。


 浮気調査は男女のどうしようもない愛憎と打算と、結局はおカネの面で自分を有利にしようという意図で依頼されることが多い。


 それから行方不明者の捜索依頼なんかも、世間体を気にして身内から社会的落伍者を出さないようにしようなんていう思いも見え隠れする。


 それから探偵をなんでも屋的に考えてる人も結構いて、場合によっては依頼人の親族の身の回りの世話にまで及ぶ介護サービス的な対応を求める人もいる。

 そういう人たちに対して王子様は、


「電話一本、コピー1枚でも費用が発生したら実費請求します」


 って。毅然と言う。


 ケチ、とか不親切とか言う人もいるみたいだけど、じゃあ、この世に職業的な介護サービスを利用せずに親族や外部から嫁いで来た者たちだけで介護している家庭が日本全国にどのぐらいあるだろうか。

 いや、そもそも『家庭=自分が一緒に暮らしたい相手』という状態になっていないだろうか。


 おっと、色々言ったけど、つまり探偵は人間のごうを担ぐ、かなり人間臭い現実対応能力が要求される仕事だと思うんだよね。


「うーん。社長」

「なんだい田代」

「どうしたんだ。洋館ブランチ支店、調子いいじゃないか」

「あら。実力よ、実力」

緋糸ひいとの奴、顧客からの紹介で今月もう5件も依頼取ってるじゃないか」

「上司の指導の賜物ね」

「いや、緋糸にセンスがあるんだろ。それと努力と」

「だからそれはわたしが教えた・・・」

「ただいまー!」

「おお、緋糸クン、おかえりなさい。お疲れ様だったわね」

「田代さんこんにちは。王子様、砂田さんの奥さん、クロだったよ」

「あら。わたしはてっきりシロだと思ってたけどね」

「逢瀬の場所、どこだと思う?」

「さあ。カフェとか?」

「古本屋」

「それはそれで純文学の恋ね」


 アタシは自分がこういう人間の機微に関わって生きてることがちょっとだけ誇らしい。

 王子様はこんなことも言ってたな。


「親の葬式出して始めて一人前よ」


 親が100歳まで生きるなら子供は70〜80歳にならないと一人前になれないってことかな。


「なあ、緋糸。本社に来ないか」

「え。田代さん、それって」

「緋糸ほどのスキルと人間力があれば本社の仕事も十分回していける。それにウチだって次世代に仕事を継承してかないとな」

「ちょっと、田代。緋糸クンは洋館ブランチで雇用したのよ」

「なに言ってる。それは部門別収支計算のための会計上の方便だろ。優秀な人材により重要な仕事を任せ更に成長を促す。人材育成の鉄則だろが。それに緋糸は人が死ぬ所も何度か見てるしな」


 あ。


「田代さん。本社ではそういう案件が増えますか」

「ああ。直接殺される場面を見るというのは数年に1回あるかないかだが、死体は嫌ほど見たな、俺は。まあ相続がらみの案件がほとんどだが」

「少し考えさせてください」

「ちょっと、二人とも! 社長はわたしよ!?」


 キャリアプランを考えるのは重要なことだけど田代さんほど緻密に考えるっていうのはちょっとまだ無理だな。

 というか、王子様はどこまでほんとに会社の将来とか考えてるのかな。

 仕事に真摯なのは分かってるけど、個別案件だけじゃなくって総合的なマネジメントに関しては見えない部分があるからなー。


 当の王子様に相談する訳にいかないし。


 桜花はしっかり者だけどやっぱり幼稚園の年中さんじゃどうしたって限界あるし。


 母親・・・尊敬はするけど、家の外で働いた経験がないからなー。家のマネジメントは完璧だけど、また勝手が違うだろうしなー。


 やっぱり、父親かなー。

 復学の件もそうだし、なによりぶちのめせbeat itの師匠だし。


 うーん。


 あれ?


 こういうの、有りかな。


 死人に訊く、とかって。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る