探偵は両方いける?

 アタシと響さんは窓際の座席だった。丁度ターゲットたちのテーブルが視界に入る位置なので自然に観察できる。


「アタシ、バレませんかねえ」

「大丈夫。化粧したら見違えた。大人っぽいし、別人別人」

「でも、よかったんですか?」

「ん? なにが?」

「だって響さんは、その・・・王子様と結婚したいって思ってるのに仕事とは言えアタシとデートなんて」

「はは。だって、王子は年中変装みたいなもんだけどアレこそ一発でバレちゃうでしょ」

「まあ、そうですけど」

「それに緋糸ちゃんカワイイから全然嬉しいし」

「やっぱり、女の子のことが好きなんじゃ・・・」

「無い無い! それ無いからっ! 怯えないで!」

「あの、じゃあもう一つ訊いていいですか」

「いいよぉ」

「根本的な問題なんですけど、じゃあどうして男装を?」

「王子のせいだっ! グラムロックかなんか知らんけど子供の頃からアイツがお姫さまみたいなカッコばかりしてるから俺が男っぽくしないとバランスが取れなかったんだよっ」


 やっぱり変だ。おかしい。似た者同士だ。


 結婚しちゃえばいいのに。


「あ。なんか動きがありそう」


 響さんがターゲットたちの会話が弾んできた頃合いを見て慎重にそれを転がした。


 ビー玉型集音マイク。


 なにせ桜花の尾行に気づいた相手だ。ビー玉が転がる音すら聞き分けるかもしれない。

 響さんはローファーの紐を結び直すふりをして椅子の下に身を屈ませ、それを待った。


「ラーブリー!」


 シュポッ、とターゲットのテーブルがシャンパンの栓を抜いた。グラスが軽く触れあわせられ、軽く場がさわめく。


 コ、と響さんは長い指の弾きだけでターゲットのテーブル真下にビー玉をコントロールし、見事に中央で止まった。


「緋糸ちゃん、このバンド、すっごい過激なんだぜ」

「わあ! どんなのかなっ!?」


 ちょっとわざとらしかったけど恋人同士がスマホでイヤフォンをシェアして曲を聴くフリをし、アタシたちはターゲットたちの会話に食らいついた。


『なあエルザ。今度はもっとキレる奴がいいんだけど』

『えー。あの子でもまだ不満なの?』

『no satisfaction さ!』

『エルザ。なら俺と組まないか?』

『アンタは別んとこから呼んでんでしょ?』


「? 何の話ですかね?」

「なんだろな。ジムのトレーニングメニューとか? トレーナーが気に入らないからチェンジ、とかか?」


 アタシと響さんは再度会話に集中する。


『今度50人ロットで入るからさ。エルザん所は?』

『ウチは30人。今夜よ。脱水症状とか心配だけどね』


「脱水症状ですって。やっぱりトレーニングの話ですかね」

「いや。やっぱり変だ」


『エルザ。もうだいぶ儲けたろう』

『まだまだ。パパやママにもっと楽させないと。弟も医者にしたいし・・・それこそ no satisfacsio よ!』


「? なんか今変でしたね」

「ああ。これってストーンズの satisfaction を引き合いに出してんだよなあ・・・あっ!?」

「ど、どうしました!?」

「分かった! ベトナムだ!」

「ええっ!?」

「船だ! だから脱水症状なんだ!」

「すみません、響さん。なんのことですか?」

「緋糸ちゃん、王子って警察の友達いたよな!?」

「は、はい。加納さんっていう刑事さんですけど」

「ちょっと俺、王子に電話してくる。こりゃあ報酬どころじゃないぞ」

「あ、ちょっと、響さん!」


 行っちゃった。

 放置?

 まあ、なんか緊急みたいだからしょうがないけど・・・


「ねえアナタ」

「えっ! は、はい!?」

「すごくカワイイわね、そのメイク」


 エルザが、立ってた。

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