探偵は山分けがお好き?

「という訳で一緒に調査しないかしら?」

「ふざけんな!」


 響さんに提案した王子様はすぐに拒否されたよ。


 そりゃあ表面の事象だけみたらアタシたちが尾行に失敗して顔も知られてしまったからそっちでお願いね、という風にしか見えないだろう。

 でも王子様は粘った。


「響。あのことを言ってもいいかしら」

「俺にやましいことなどない」

「ふーん。じゃあ名前、言っちゃおうかしら」

「な!?」

「あのねえ、響の名前はねー」

「や、やめんかっ!」

「? え。響さんて下の名前じゃなかったんですか?」

「違うよー、緋糸ひいと。響センセの名前はなあ・・・」

「タケルっ! 言ったら降格だっ!」

「は! ・・・ご、ごめんなさい!」

「なに・・・? そんなに知られたくない名前? アダ名じゃなくて?」

「な、名前なんかどうでもいいだろ?」


 言えない本名って・・・まあ例えば王子様にしたって『王子』って命名されて嬉しい子もいれば悲しい子もいるだろうし。


「あのね。響の名前は、『ひめ』」

「えっ!?」


 王子様があっさりとバラした響さんの下の名前にアタシと桜花が思わず反応した。


「王子っ! てめえ!」

「なによ、姫。名前通り高貴に振る舞わないと」


 王子様とお姫様。

 そりゃあ結婚するしかないよねえ。


 響さんは共闘を最初は渋ったけど結局は受け入れてくれた。響探偵事務所は現在この3人しかいない。

 社長が響さん、副社長がカンジくん、専務がタケルくん。

 圧倒的にマンパワーが足りないので面が割れたアタシたちは後方支援に回って直接の調査は響さんたちがやるということで。


「姫っ」

「うるさい!」

「ひーめちゃん♡」

「殺すぞ、王子」


 アタシたちは間違いなく難敵であるターゲットに再びアタックした。

 山分けしたところで破格の報酬には間違いない。響さんのところはこの仕事だけで年間の人件費が賄えるという。


 あれ?

 つまりこれが終わったら一年間バカンスでもいいってこと?


「んなわけないぜ、緋糸ちゃん。仕事仕事」


 やっぱり響さんは仕事に誠実な人だ。そして有能でもある。


「ターゲットの本名すら特定できないってことは彼女は日本国籍じゃないかもな」

「ふうん。姫もそう踏んでたか」

「ひ・・・まあいい。ターゲットが仮に外国籍だとしたらどこの国かってことが重要な手がかりになる」

「それがわかればねえ」

「わかるさ、王子。でな。緋糸ちゃんに俺と一緒にターゲットを尾行して欲しいんだ」

「え。響さん、アタシ顔バレちゃってますよ」

「なら変装すればいいだろ?」


 あ。


 そっか!

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