探偵は眠れぬ夜を戦いにぶつける

「行くぞお!」

「いらっしゃい!」


 ひびきさんはまず王子様の執務デスクの上に飛び乗ってそこからいきなり飛び蹴りを放った。


「でえい!」

「ふふ。いきなり大砲とは!」


 王子様は突き刺さるように飛行してくる響さんのモカシンのつま先を自分の体をローリングさせて片手でつまみながらいなした。

 響さんは床にそのつま先で着地した瞬間につまさきのヘリをバネのようにして王子様の方向に飛び戻り、今度は手刀を繰り出した。

 響さんのジャンプ力が半端ない。


「とうっ!」

「はい!」


 王子様は響さんの跳躍から繰り出されるエネルギーを使っての攻撃を相殺するような動きでまだまだ様子見に見えるけど・・・そんな余裕かましていていいのかな?


「あ! 王子様! それダメだよ!」


 響さんのエルボーを被弾しそうになる王子様に向かって思わず桜花おうかが声をかける。


「ふふ。桜花クン、心配ご無用よ! はいいっ!」


 ロンドンブーツのいつもはソール全面か踵を多用する王子様が珍しくつま先を振り子のように蹴り出した。響さんがスゥエーで避けるのを見越しての攻撃だったようだ。実はすぐ後ろがもう壁のところまで来ていた響さんがスゥエーバックと同時に後頭部を自ら痛打した。


「ああっ!」


 痛みによる発声は女性らしかったよ。アタシだったらここで少し怯むというか攻撃の間隙を伸ばすかもしれないけど王子様は情け容赦なかったね。


「ヘイヘイヘイ!」

「あっ、あっ、あっ!」


 途端に防御一辺倒になる響さん。

 瞬発力と跳躍力はすごいけどやっぱりパワーは王子様より弱い。元々長身を活かしたパワープレイで攻撃を組み立てる王子様の圧力に徐々に屈しかけている。


「ほらほら響! もう降参するんだ!」

「いやよ! わたしは勝ってアナタと結婚するのよ!」


 ・・・あれ?

 なんか王子様が男言葉で響さんが女言葉使い始めたな・・・いや、別にそれが本当は当たり前の話なんだけどね。


 でも、ちょっとちょっと。

 響さん、泣いてるよ?


「王子にわたしの気持ちなんて分からないわ! 同業だから、ライバルだから、距離を置いて闘争心をむき出して、眠れない夜を過ごして・・・だから仕事で、バトルでアナタに勝ってアナタをわたしのものにするのよ!」

「響・・・」


 あれあれ。

 止まっちゃったよ。


「王子・・・」

「響・・・」


 えぐえぐと両手で顔を覆って泣く響さんの肩を王子様がそっと抱く。


 菓子盆のせんべいと一口チョコをパリパリもしゃもしゃと食べながらそれを見物するカンジくん、タケルくん、桜花とアタシ。


 よくわかんないけどハッピーエンドなのかな?


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る