探偵は恋愛にもいそしむ?

探偵はライバルに甘く囁く

「『ひびき探偵事務所開設しました』だって」


 ツイッターのTLを眺めながら王子様は短く呟いた。

 王子様はいつも同業の動きをこまめにチェックしてる。経営者としての嗜みだと言ってるけど、根っからの探偵ドラマ・探偵アニメファンである王子様の言葉だから興味本位という感じがしないでもないけど。


 でも、好きかどうかは別として興味を持てることが仕事だったらなんか、いいよね。


 それが『憎しみ』って興味でもね。


「王子ぃっ!」


 階下のインターフォンも押さずに二階に上がってきたんだろうか、王子様とアタシと桜花おうかが仕事前のカフェ・タイムにフルーツ・ケーキをついばんでいたところにイケメンが現れた。


「あら。ひびき。久しぶりね。ちょうどアナタの所のツイート見てたのよ」

「王子! いい加減俺と結婚しろ!」


 アタシと桜花は固まる。王子様はケラケラと笑いながら構わずに喋り続ける。


「いくらわたしでもイケメン男子と結婚する先見性はないわよ」

「俺は女だ!」


 またアタシと桜花が固まり直す。どうやら探偵になろうという人間はどこかアクセントをつけないと人生を送れない人たちのようだ。


 あれ? なんか後ろからちっこいのが出てきたな。


「響センセ、こんな湿気しけた探偵、はやく潰しちゃいましょうよー」

「分かってるさタケル。一週間かけるつもりはない」

「ねえキミ」

「なんだよ幼稚園児」


 キミ、と桜花おうかが礼儀正しく問いかけてるのになんだこの自分こそ幼稚園児みたいな男の子は。


「ねえ。キミも探偵助手?」

「専務だよ」

「え? ヤクインなの?」

「お前ほんっとにすねかじりなんだな、幼稚園児。役員の意味わかってんのか?」

「ちょっとちょっと」

「なんだよ、中坊ちゅうぼう

「ちゅ・・・いやいや、ウチの妹に何言ってんのよ」

「ふうん。お前、姉貴か。姉妹揃って甘ちゃんが」

「タケル、やめないか」


 また1人誰か来たって・・・へえ。


「すまない。弟が無礼を働いて」

「カンジ兄ちゃん、無礼じゃないよ。事実を言っただけだよ」

「タケル。目に見えるものでしか判断できないのがお前の悪いところだ。彼女はお前より強い」

「なんだって!?」


 タケルって子はよっぽど自信たっぷりでこれまで生かされてきたんだね。それに比べてカンジってお兄ちゃんの方はなんかデキル奴って感じだね。


「この幼稚園児が俺より強いってどういうことだよ、兄ちゃん!」

「言った通りの意味だ。ええと・・・」

「桜花です」

「桜花さんはタケルから『幼稚園児』と呼ばれても全く気の乱れがなかった。もし今の状態で彼女と立ち合ったらタケルが瞬殺される」

「聞き捨てならないな。おい! 幼稚園児!」

「桜花だけど」

「桜花! 俺と勝負しろ!」


 桜花がアタシを見る。アタシがうん、と頷いた後で王子様を見て、王子様もいいよ、と唇だけ動かして返事した。


「いいよ。やろっか、タケルくん」


 あらあら。桜花って大人。ちゃあんとくん付けで呼んだし。


「ええとお姉さんは」

緋糸ひいとです」

「緋糸さん。僕はカンジ。すまないね弟が納得しなくて。体で分からせてやってほしい」

「ちょっと待て!」


 場を一括したのは響センセだった。


「下のものだけ戦わせるのは片手落ちだ。どうだろう。団体戦にしないか、王子」

「ふふ。おもしろそうね。響、手加減しないわよ」

「うるさい! 俺の方が手加減してたんだよ! カンジ!」

「はい、響先生」

「お前も緋糸さんと戦え!」

「はあ?」


 アタシは思わず訊き返した。


「な、何言ってんですか!? なんでアタシとカンジくんが!」

「やろう、緋糸さん」

「えええ!?」

「キミは相当な強さと見た。僕も全力でやるからキミも全力で僕を倒しに来て欲しい」


 ああ・・・ちょっとはまともなキャラが出てきたかと思ったら・・・

 このカンジって子も相当おかしい。

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