探偵は刑事とセットで

「王子ちゃーん。揉め事起こさないでくれるかなー」

「あら。揉めてなんかいないわよ。ねー、緋糸ひいとクン、桜花おうかクン」

「えへへ」

「うふふ」


 刑事と王子様のやりとりにどう反応していいか分からないアタシと桜花は引きつった愛想笑いをして警察の応接室の場を和ませようとしたけど無理だったな。


「加納さーん。カツ丼ちょうだい?」

「王子ちゃーん。いつも協力してもらってるから目ぇつぶってんだからー。俺が上司に睨まれるようなことやめてくれる?」

「あの、加納さん?」

「おー、なんだい緋糸ちゃーん」

「王子様とはどういう?」

「ご関係かって? ははは、相互依存関係というか不足補充関係というか、助け合ってんだよなー。いや、愛し合ってるのかなー?」

「わたしは加納さんのこと結構好きよ」

「おーおー。王子ちゃんは器量好しだからなー。助手のお嬢さん方も可愛らしいねー」

「あら加納さん。セクハラよ」

「固いこと言うなよ王子ちゃーん。でもでもありがとね。国際手配されてるスミザリーン・ファミリーの幹部4人一網打尽にできたからさー。警視総監賞ものだよ、こりゃあ」

「要らないわ」

「はい、要りません」

「じゃあわたしも要らなーい」


 王子探偵社の3人は自分の趣味で目立つのは一切構わないけど、他人に引きずり出されて目立つのは晒されるみたいで嫌なのだ。ましてや警視総監から褒められたって別に嬉しくともなんともない。


「加納さんが淹れてくれたベンダーの紙カップコーヒーでOKよ」


 せっかくだからということでしばらく雑談をすると王子様のとんでもない経歴が次から次へと繰り出されてきた。


「王子ちゃんはね、エリートだったんだよ、緋糸ちゃんに桜花ちゃん」

「エリート、ですか?」

「あっはっは。まあ褒めてくれてるのかしら?」

「王子ちゃんはね、そりゃあハードボイルドを絵に描いたような探偵でね。警察が収集しきれない情報を王子ちゃんに頼んで集めてもらったりとかね。結構な金額の情報提供料を払ったりしたけどね」

「昔の話よ」

「銃も貸してあげたしね」


 え、とアタシと、それから桜花もさすがに常識の範疇を超えていると思い、一応聞いてみた。


「あの、許可は?」

「そんなもんあるわけないじゃなーい。俺と王子ちゃんの仲だからさー」


 カツ丼じゃなく加納さんの部下がコンビニで買ってきてくれたサンドウィッチをアタシはぼとりとテーブルに落とした。


「に、日本の治安は乱れきってるんですね!?」

「あらやだ。緋糸クン、どうして?」

「だって、普通の民間人に警察が銃を貸すなんて」

「昔の話よ」

「ああ、昔の話だ」


 そう言って王子様と加納さんは視線をどこか遠い場所にやった。

 いやいや、ハードボイルドだからって許されるわけないでしょ!?

 と思ったけどツッコむのはやめておいた。コンプライアンスを遵守する人たちの中にだって非道な人間は山ほどいる。ううん、むしろ表面上のコンプライを取り繕う人間ほど法を都合よく解釈したり作り変えたりして卑怯なことやってたりするもんね。


「緋糸ちゃん、どうかな? 桜花ちゃんと2人で1日署長やってみない?」

「はい?」



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