探偵はファミリーになりたい

 ものすごい人混みだよ。

 この地方最大級のアウトレットってこともあって近隣県からも高速使って車がわんさかやって来てる。


 そんな中、アタシたちは優雅にベスパのサイドカーで乗りつけた。


「さてお嬢さん方、どの店見たい?」

「わたしはペットショップ!」


 フクロウのハヤテは田代さんが自宅で飼ってるわけだけど、時折我が家にに来てくれる。桜花おうかはその時のお泊りセットとして、冷凍マウスの仕入れルートを増やしたいということのようだ。


緋糸ひいとクンは?」

「アタシはスポーツショップ」

「ふーん。何が欲しいのかしら?」

「ランニングシューズ」


 アタシが克服しなきゃいけない課題として、外反母趾がいはんぼしを自覚してる。ハードアクションも交える探偵稼業で『走る能力』が身の安全を左右するってことも徐々に分かってきた。

 事前にネットで調べたら、矯正用のインソールとランニングシューズをセットでアレンジしてくれるシューフィッターの資格を持った店員さんが常駐するスポーツショップが入っていることが分かったんだ。


「王子様は?」


 アタシが気を利かせて訊いてあげると王子様は目をキラキラさせて答えた。


「コスプレショップ!」


 ・・・・・・・・・・・


 桜花もアタシもそれぞれのショップで用を済ませた後、王子様ご所望のコスプレショップにやって来た。


「いらっしゃいませー! 視聴率低迷したアニメのファッション詰め合わせ! バルクでなんと3割引〜っ!」

「はいはいはい。そこのお兄さんお姉さん! 歴代アニメの戦闘シーンで使われたサングラス、選り取りみどり! これを機にサングラスデビューして二度とキモいと言わせるな!」


 もしかしたらこのエリアが一番盛況かもしれない。既に常人のファッションじゃないコスプレイヤーたちですし詰め。熱気と汗の湿気でムンムンしてるよ。


「でも王子様、なんか意外。王子様はグラムロック・ファッションだから一般的な海外ブランドの洋服で統一してるのかと思ってた」

「あら緋糸クン。今日はわたしじゃないわよ。よ」

「へ?」

「3人でコスプレするのよ!」


 冗談にしてほしい。

 王子様がスマホで何やら画像を示しながらショップのスタッフを呼び止める。


「ねえ。これ、見せてくれないかしら?」

「お客様。マニアですね」


 ショップの奥のそのまた奥のドアに3人して案内された。


 ドアを開けるとラックに無造作にかけられた服と、アクセサリーと、靴や付属品が狭いスペースに押し込まれていた。


「『ビジネス探偵』。視聴率は最低でしたけれどもコアなファン同士がオフ会をやりまくってたという伝説のアニメですね。お客様ご職業は?」

「探偵よ」

「グレイト! アナタこそ本物の中二病だ!」


 スタッフと王子様が意味不明で不毛なやりとりをしてる間、アタシと桜花はそこに吊られている衣装の数々を見て引いていた。


「お姉ちゃん、これなに?」

「それはSM・・・ううん、桜花、そんなもの一生知る必要なし!」

「じゃあこれは?」

「・・・破れた水着」


 仕方ないじゃない。わざと胸を露わにする衣装なんて言えないじゃない。


「お嬢さん方、お待たせ」


 王子様はいつの間にか着替えてた。


「お、王子様!? それは!?」

「かっこいいでしょ、緋糸クン」


 グラムロックがハードロックになっただけのようなファッション。


「レザーのパンツに皮ジャン。鋲付きのベルト。皮のブーツ。どう?」

「どう、って言われても。それ、誰のコスプレ?」

「主人公の探偵、『ギルティ』よ」


 うわ。


「もう夢中になったわ。わたしが中学の頃よ。お金が無くて買えないから学生服をアレンジして真似してたわー」


 王子様の中学時代・・・なんか、想像したくないなー。


「ほらほらお嬢さん方にはこれよ」

「・・・やだなー」

「お姉ちゃん、わたしは着てみたい!」


 アタシは赤のレザーパンツに鋲付きのリストバンドでヒロインの『フォーギブ』。桜花は可愛らしい黒のレザーのミニスカに、ブルージーンのジャンパーでマスコット的存在の『ヒーリン』


 その場にミニスタジオがあってすぐに画像を撮った。

 出来上がったスリーショットに王子様はご満悦だ。


「あらやだ、ホントの家族みたいだわ」


 やだよ。

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