探偵は命の遣り取りを見届ける
王子様、ケリー、わたし、そして
それから、桜花の手にはケージの中のハヤテ。
関係者、というか当事者にして責任者たちが一堂に集い、ボロアパートの角から視認した。
「ケリー。あなたが先頭で入って行って。二階の201号室よ」
「ああ。分かった」
「ケリーが内付けの階段を登り始めたらわたしと
「王子様、桜花は?」
「この角で待機。それでね、桜花クン」
「うん、王子様」
「5分経ってわたしたちが帰って来なかったらハヤテを放って」
「うん」
「意味、分かるわね?」
「はい」
ここは地方の、わたしたちの街の一角だよね。
探偵社の経営者である王子様と、探偵を廃業したケリーと、中学を卒業保留中のアタシと、猛禽類をケージに提げた幼稚園年中さんの桜花という、ごく普通の日常生活者たちと一緒に立っている。
相手のカイザーだって法的に職業として認められているただの探偵だ。
なのに、どうして内戦が起こっている国へのフライトに搭乗する瞬間のような、燃え盛る被災地へ初動隊として赴く職業的な救助者たちのような緊張感が湧きおこるんだろう。
このボロアパートの中で、命の取り扱いが行われることを、全員、覚悟している。
「行ってくる」
「ええ。健闘を祈るわ」
ケリーが階段を軋ませて登り始めた。
「緋糸クン、カイザーとケリー。どちらかが声を発したら足音を立てずに部屋へダッシュよ」
「王子様。どうしてアタシを」
「アナタがわたしより強いからよ」
ギギ、と木製の引き戸を開ける音がした。両者が対面をしたのか、それとも姿を見せずに探偵同士の攻防が行われているのか。
アタシたちは空想しかできない。
「30秒も経った・・・」
王子様とてプロの探偵だ。
多分プロ同士で何かが起こるならば瞬間で事足りると思ったのだろう。王子様が焦り始めていると声がした。
「カ、カイザー・・・」
相手の名を呼ばわる以上、それはケリーの声。
同時に、ポスっ、という乾いた軽い音がした。
王子様の後に続いてアタシは階段を駆け上がる。ロンドンブーツなのに全く足音を立てない王子様にアタシは驚愕した。
半分開いた部屋の引き戸から、仰向けで畳に倒れるケリーが見えた。
残っていた右目を撃ち抜かれていた。
初対面であるカイザーは、アタシたちが誰かも訊かずにオモチャみたいな黒い銃の照準を王子様の眉間に定めようとしていた。
「桜花あっ!!」
わたしがコンマ1秒かからず決断して叫んだ時、桜花も同時に叫んだ。
「ハヤテ、GO!!」
ケージから放たれたハヤテは超小型サイドワインダーなど比べ物にならないぐらいの野性の精度でアパートの通路を飛行し、あっと言う間に二階に飛んできた。
アタシと王子様の肩口の死角を利用してステルスのようにカイザーの首筋に着弾した。
「うっ・・・」
自分の頸動脈に爪を突き立てられてもカイザーはプロらしく最低限の呻きしか上げなかった。それどころか銃口をハヤテの首の後ろあたりに当てがって発砲するモーションに入った。
ハヤテは180°首をギュるんと回転させ、日常の動作のようにあっさりと
ポスポスと二発撃たれたサイレンサー付き拳銃の銃弾は虚しく蛍光灯を割ったのみで、カイザーはこと切れた。
「害獣駆除案件として処理されるわ。たまたま銃を持った探偵とたまたま彼に恨みを持つ元探偵が密会し、そこへ鋭利な爪を持つ害獣がたまたま飛び込んで来た」
桜花にはハヤテがアタシたちの命を救ったとアタシから伝えた。
賢い桜花はハヤテが人間の命を奪ったことをも理解し、ショックを受けている。
王子様は桜花にこう言ったよ。
「任務を果たしてくれて、ありがとう」
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