探偵は少女を正社員にする
あっさりとアタシは王子探偵社の正社員になった。役職は「王子探偵社・洋館ブランチ所長」。
「王子様が所長じゃなかったの?」
「ちっちっちっ。わたしは社長よ?
なんだかよく分かんないけど、アタシは雇用保険やら医療保険やら色々な手続きをして正社員になってしまった。
さすがに
桜花の将来のためにちゃんと預金口座作って積み立てとくからね。
正社員になったからにはケリーのハードボイルドな依頼にも答えなきゃならない。アタシは王子様に求められて『
奥儀以外は、だけどね。
ところでケリーは隔日での進捗報告を契約条項に指定したんだよね。
「俺はせっかちでな」
そう言ってるけれども、多分探偵稼業に未練があるんだろうね。
アタシたちが現役で調査や時として『アクション』に身を任せることを羨むんだろうな。
今日は土曜日で幼稚園が休みだから
「お嬢さんたち、成果はいかが?」
「まだです」
ちょっと無愛想すぎるかな? 社交、ってものにアタシももっと頓着した方がいいかな?
その点桜花は偉いもんだよ。
「ケリーさん、一生懸命探すからね」
「ほ。ありがとう」
なかなかにほっこりするやりとりだね。けれどもケリーはやっぱり一言余計だよ。
「一生懸命探してくれたら見つけた探偵を一生懸命なぶってくれるかい?」
桜花、考えてる。
でも、桜花はやっぱりすごい子。
「なぶるのは自分でやってね」
「ほう。この年寄りの俺に自分で人を殴れと」
「うん。お父さんが言ってた。自分の手を汚さずに人を傷つける人が一番最低だって」
さすがのケリーも苦笑してる。
桜花が妹で本当によかった。
それにしても王子様の捜索方法がなんとも不思議なものなんだよね。
「フクロウを使うわよ」
ほんとに使ったんだ。
田代さんが飼ってるアフリカオオコノハズクっていう種類のちょっと臆病なフクロウ。
名前は、ハヤテ。
「ハヤテ、GO!」
田代さんから捜索のために借りてる間、お世話係は桜花。桜花がケージから放つとハヤテは地方だけれども都会的なセンスと退廃が混在した街の路地を空港の滑走路のようなスムースさで滑空して発進する。
すすす、って美しい滑らかな翼を拡げ、収縮しを繰り返しながら、ステルス戦闘機のように、シュン、ってビルとビルの間をすり抜ける。
「王子様、田代さんがペットを飼ってるなんて凄い意外なんだけど」
「ふふふ。田代は仕事も生活もあらゆることに於て合理的でないことはしないわ。ハヤテはねえ、超優秀な猛禽探偵よ。千里眼、てやつなのよ」
「千里眼?」
「フクロウの視覚はずば抜けてるわ。猛スピードで飛びながら人間の顔を視認するのよ。そして、ハヤテは驚異的に頭がいい。このわたしたちが探してる探偵。カイザーの姿形を360°の方向から完璧に記憶してるわ。どう? アパートの部屋の片隅に潜む小悪党を探すのに適任でしょう? そしてね、ハヤテは攻撃力にも優れてる。あの爪を見て」
アタシはひと捜索して、ファサっ、と戻って桜花に撫でてもらっているハヤテの足元を見る。
その鋭利と土台たる筋骨はきわめて合理的で冷徹な武器だと思った。
「そしてこれが重要。ハヤテはね、臆病で勇敢なのよ。いい? 臆病なのに勇敢なのよ」
王子様はしつこいほどに繰り返した。
「臆病な子が本当は一番勇敢なのよ」
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