探偵はハードボイルドに生きて死ぬ

 ケリー。不動産屋に行けよ!

 って思ったけど、実はこういう依頼内容だった。


「そのアパートはブラックな起業家ばかり入居している物件だ。アパートといっても四畳半のそれじゃない、とは思ってる。アパルトメントと言えば語感で伝わるだろう」

「なるほどね。オーナーがいわゆる法のグレーゾーンで事業をする怪しい起業家ばっかり集めて住まわせる訳アリ物件てわけね。たとえばどんな?」

「貯めた水が健康水になるという浄水ポット販売。ピンハネ率の高い芸能事務所。それから、探偵」

「そうだと思った。ケリー。アナタ、探偵ね?」

「探偵。そのアパートに住まう探偵のせいで廃業した」


 ケリーがそう言ってサングラスを外すと一筋の涙のようなラインが現れた。


 左目が、無かった。

 その無い左の目尻から5cmほどの切れ目のような傷が、すすっ、と左ほおに向けて流れていた。


「頼む、探偵。そのアパートを探してくれ」


 王子様とケリーはいくつかの一問一答を行った。


「ケリーの左目を奪った探偵の名前は」

「カイザー」

「どうやって、左目を?」

「バールで、えぐって」

「なぜ?」

「俺がナンバーワンの探偵だったからさ」

「へえ」


 王子様はニヤリと笑った。


「アナタが依頼しなかったとしても、わたしはその探偵を探したわ。なぜならわたしが現在のナンバーワンだから」

「それで?」

「探してわたしが現役ナンバーワンだと証明する」

「結構だ。では、報酬の見積もりをお願いする・・・」


 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 依頼主は元探偵。

 名前はケリー。

 依頼内容はその不可思議なアパートを探すこと。

 そしてケリーの左目を奪った探偵を見つけ出すこと。


 ハードボイルドだね。


 でも素朴な疑問がわく。


「王子様。わたしたちのバイトの範疇超えてるよ」

「あら。なら、正社員になる?」


 えっ。



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