探偵はブラックに染まる・・・カッコつけちゃって

 洋館ブランチに持ち込まれてくる長閑でどこかユーモラスな案件たち。

 王子様はなんだかご不満のようだね。


緋糸ひいとクン、わたしはハードボイルドな探偵を演じたいのよ」

「演じるんじゃダメでしょ。仕事でしょ?」

「うーーーん。あのね、わたしが探偵になった理由はね・・・分かる?」

「経営者としての自覚を持って探偵になったんでしょ!?」

「怒って言わないでよ。もちろんわたしなりのビジネスモデルを探偵業として確立したいっていう経営者的野心もあったけど、やっぱり探偵そのものへの憧れもあったのよ」


 まあ探偵って小説に漫画にアニメに映画にと題材になるもんね。

 それにカッコいい探偵像っていうのもなんとなくわかるよ。分かるけど、王子様の言うハードボイルドってどんな探偵?


「ほら、コレ見て?」


 王子様がアタシにスマホで見せてくれた画像は、黒のスーツ、赤のワイシャツに黒のソフトハット、長身痩躯、鋭い目つき、哀愁漂う肩幅・・・


「これが理想の探偵よ」


 どうやらアタシが生まれる前の伝説的な探偵ドラマの主人公のようだ。

 その俳優は、本気、といおうか、本物、といおうか。

 周囲の空気が全く違う。別次元の存在感。


「王子様。ならなんでこういうファッションにしないの?」

「わたしがグラムロックを愛してるからよ」


 そんな感じで王子様は今朝からずっと、ハードボイルド・ハードボイルド・ハードボイルド・・・ってお念仏みたいに称えてる。


 ああもう、めんどくさいなあ。誰かハードボイルドな事件、依頼しに来てよ。

 と思ったら、来ちゃった。


「探偵はキミか」


 洋館ブランチの入り口に立っていたのは上下ダークスーツにネクタイを締めない白のワイシャツを着た中年男性。

 今時珍しい角刈りでレイバンのサングラスをかけてる。


「そうよ」


 あれれ? 王子様、依頼人に対してタメ口? なんか完全に雰囲気に浸ってるな。

 中年男性は、ケリー、って名乗ったよ。どうなってんのよ。


「ケリー、依頼内容は?」

「おっと、その前に。そちらの美しいお嬢さんとかわいらしいお嬢さん方の素性を述べてもらおうか」

「え。えっと・・・助手の緋糸ひいとです」

「助手の桜花おうかです」

「よろしい。結構だ。探偵、依頼の前にキミのスキルを見せてもらおうか」

「そうね。どうすればいいかしら」

「フットワークを見せてくれ」

「いいわ」


 よくわかんないけど王子様はゆっくりと応接ソファから立ち上がってロンドンブーツを履いたまま、やっぱりよくわからないステップを踏んだよ。

 なにダンス?


「ほ・・・やるな。今度は銃の構えを」


 ビ、ていう感じで王子様は銃を構え照準する動作を銃を持たない手でやって見せた。


「速いな。0.03秒ぐらいか」

「自己ベストは0.01よ」

「グレイト! わかった。キミに決めた」

「で? 依頼は?」

「アパートを探して欲しい」


 ・・・はあ?

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