探偵はバトルを楽々とこなす?

 予測はしてた。

 けど、こんなに早くとは。


緋糸ひいとクン! 来たわよ!」

「あの・・・王子様、緊急事態ってのは分かるけど、なんでウチの固定電話に?」

「未成年の緋糸クンを喧嘩の現場に連れてくからよ! 万が一を考えたら親御さんに許可取らなきゃいけないじゃない!?」

「あの。こんな真正面に言って取れると思ってるの?」

「いいぞ、緋糸。行ってきなさい」

「と、父さん!?」


 最初に電話を取ったのが父親だったので、あらかたの内容は分かってるはずだ。アタシのバイト先でトラブルが起こってて、どうやら諍いを収めなきゃいけないんだっていう。


「緋糸。正義を貫いておいで」

「父さん・・・」


 父さんって、こんなにカッコいいキャラだったっけ?


「それからな、緋糸。中学の時みたいに、使っていいからな」

「う、うん・・・ほんとにいいの?」

「いい。緋糸に教えた『ぶちのめせbeat it』は実践の護身術だ。攻撃しないと護れないモノもある。やりなさい」

「ありがとう、父さん」


 アタシはGPSで常時 三都サントくんの安否をフォローしてた王子様から連絡を受けて駅方面へと急行するためにママチャリにまたがった。

 あれ? なんか、後ろが重いな?


桜花おうか!」

「お姉ちゃん、わたしも行く」

「何言ってるの桜花! 相手は高校生の男たちよ!」


 桜花がいつの間にかママチャリの後部座席に座っている。

 アタシが言った通り高校生のいわば大の男4人が三都くんに暴力を振るおうとしている相手なんだ。正確には三都くんへのいじめの罪状を理由に強制退学させられた高校生だけど。


「行く!」


 桜花・・・


「わかった。5歳の桜花だってもう正義の心を持ってるもんね。桜花は『ぶちのめせbeat it』をどこまで習った?」

「フットワークまで」


 ならば相手から攻撃を受けても逃げられるな。

 アタシん家は戊辰戦争で戦死したご先祖の遺訓で、古武術と近代白兵格闘技をミックスした『ぶちのめせbeat it』っていう護身術を継承してきてる。本来は長男に引き継ぐんだけど、男子が生まれなかった父親は女子2人のわたしたちに対してやむなく教えてくれたって訳。いくらキレてるからってアタシが何もなく中学で6人の男子を病院送りにできる訳がない。


 そして桜花もその奥義を修行中だ。

 だから桜花はきっと頑張れる。


「桜花、行くよ! しっかり掴まって!」

「うん!」


 アタシはもう間もなく日が落ちる街を、ママチャリで全力疾走したんだ。


「あ。お姉ちゃん、あそこ!」


 なんで。


 王子様は4人から殴り続けられる三都くんを、黙って見てる。

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